赫い月、蒼い夜
第1章 愛を探して
「い、いいって、このぐらい?」
び、びっくりした…いきなり脱げ、だなんて…
「なに気取ってやがんだ?そんな目立つとこにシミがあったら笑われんだろ?」
力づくで脱がそうと彼の手がベルトに伸びてくる。
「じ、自分でやるからっ‼」
触らせまいとベルトを押さえる俺の手に、
外そうと伸ばされた彼の手が重なる。
咄嗟に、俺は彼に背を向けるように体の向きを変えた。
ちょっとムキになっていたせいでベルトはすんなり外せず、カチャカチャとうるさく音が鳴るだけだった。
「ほら、これ履いとけ。」
ムダに悪戦苦闘している俺に、彼は履き古したジーンズを俺に向かって放り投げ、奥の部屋をアゴで指し示した。
俺はそいつを奪い取るように抱え、リビングから出てすぐそこにあるドアを開け飛び込んだ。
そして、ドアに背を預けるように凭れかかって二度三度深呼吸した。
意識するなんて…俺ってばバカ。
冷静になった頭で今度は手早くズボンを履き替えドアを開けた。
考えごとしてるみたいにこちらに背を向けお茶を飲んでいる彼に歩み寄る。
「あの…」
「お、おう。」
俺の手からズボンを奪い取ると気まずそうに視線を外らしながら立ち上がった。
「サイズ…」
「え?」
「サイズ…大丈夫か?」
「ちょっと…短い…かな?」
「オマエな…」
「ごっ…ごめんなさい!」
「別にいいけど…ちょっと待ってろ?」
「ありがとう…ございます。」
ふと彼が立ち止まる。
「にしてもお前…ホントにいいとこの坊っちゃん、って感じだよな?」
どういう意味なんだろう?
「ちゃんと『ありがとう』とか『ごめんなさい』って、すらすら出てくるじゃないか?」
「だって…親がうるさかったから。」
「親が……か。」
瞬間、彼の表情が曇ったように見えた。
それを確認するまもなく彼の姿は奥に消えてしまった。
何か言ってはいけない言葉を口にしてしまったか。
戻って来た彼の表情からは伺い知ることは出来なかった。
「これ…このデニムは後で洗って返しますから?」
「お前、バカか?」
「えっ?」
「知らねえのか?ソイツは年代物だ。」