
赫い月、蒼い夜
第2章 動き出す心
担がれてんのかも…
そう思ったけど、見ず知らずの俺にここまでしてくれる爺さんがウソついてるなんて、俺は思いたくなかった。
信じてる、なんて言い方はちょっと野暮かも知んないけど。
「お前さんの気が向かない、って言うなら無理にとは言わんが…」
「…いいよ?ただ、恥かかせるかも知れねぇけど?」
「…ありがとう。」
「礼を言うのは俺の方だっての?」
「…私は何もしてないよ?」
爺さんは微笑むとそばにあった椅子を引き寄せ腰掛けた。
「強いて言うなら、前途有望な若い者を探し回っとるだけのヒマな老人だ。」
「…俺は暇つぶし、ってことかよ?」
「今までで一番有意義な暇つぶしだったぞ?」
「…そりゃどーも。」
こうして、著名な芸術家のおこぼれに与ったわけだが、地元の専門誌に小さく載っただけで俺の作品はさして話題に上ることはなかった。
でも俺は相変わらず爺さんの家に居座って絵を描いていた。
そんなある日、爺さんの孫で小学生ぐらいの女の子が粘土遊びをしていた。
俺はその様子をしばらく黙って見ていたが、彼女は小学生とは思えない手付きでどんどん形にしていく。
目が離せない。
やがてそれは、今にも動き出しそうなネコとなった。
粘土遊びなんて、ほんのガキの時に何の考えもなくただこね回してただけだったけど、
平面的な世界観にもう一次元加えた世界観に俺は、
あっと言う間に魅了されてしまった。
「ねぇ、お祖父ちゃん、サトシは…どうしちゃったの?」
小さな子どもと一緒になって粘土をこね回している俺に、孫娘は眉を顰めた。
「どうやら、面白い遊びを見つけたみたいだぞ?」
「そうなの?」
彼女は、結果的に小さな子どもの相手をしてくれている俺の姿に安堵しているようだった。
でも、俺は真剣だったし、楽しかった。
絵を描くのも楽しかったけど、自分の手で自在に色んな形を作っていくのはもっと面白かった。
結果…
だいぶ端折ったけど、今の俺があるわけだが。
和「それにしても良かったですね?たまたま俺がその家に遊びに来てて?」
「嘘つけ。たまたまじゃなかったんだろ?」
和「バレてました?あなたに会いに来ていたこと?」
