赫い月、蒼い夜
第1章 愛を探して
バスルームから出てくると、アイツの姿はなかった。
『また、連絡する。』
そう書かれていたテーブルのメモ書きをくしゃりと握り潰して屑籠に放り捨てた。
身支度をきちんと済ませエレベーターに乗り込む。
エレベーターが止まり扉が開く直前、俺の携帯電話が鳴動した。
「…はい。」
『お前、今どこにいる?』
「友だちの家…だけど…」
父親からだった。
『泊まるなら泊まるで電話ぐらいしなさい。』
「…ごめん…なさい。」
『今日は何か予定はあるのか?』
「どうして?」
『あまり遅い時間にフラフラしてないでさっさと帰ってきなさい。』
「でも、俺にも付き合い、ってのがあるし?」
『まさか…変な輩と関わってるのか?』
「そうじゃないけど…」
まったく…面倒くさいなあ…
父親は大きな会社を経営する社長だけあって、体面ばかりを気にしていた。
母親は母親で、よくわからないけど、何とか、っていう手芸の有名な作家らしくて、ここ最近は自宅で顔を合わせることはなかった。
が、顔を見たら見たで父親と言うことは同じだった。
要は、自分たちは自分のことでいっぱいいっぱいだから手を煩わせるな、ってことだ。
俺を置き去りにしたまま、目の前でエレベーターの扉がピシャリと閉じられた。
「もう切っていい?」
『ああ。私ももう行かないと。』
父親が電話口でため息をつく。
俺のほうがため息が出るんだけど…。