赫い月、蒼い夜
第1章 愛を探して
ようやっとホテルを出ることができた俺は、気分転換がてら歩いて帰ることにした。
大学の講義は午後から。
それまでに一旦、家に帰って着替えて…
頭の中で、あれこれ考えてると、何だか面倒くさくなってきて、
差し掛かった公園の噴水の前で腰を下ろした。
講義、サボろうかな?
ポケットの中からタバコを探り当て口に咥えた。
でも…
あれ?ライターが…
しばらく探したけど諦め、タバコを仕舞いながら腰を揚げようとした。
「これ使え。」
いつの間にか、俺の目の前には知らない若い男が立っていて、その手の中にはライターがあった。
「タバコ吸うんだろ?」
ほれ、と、半ば強引にライターを押しつけてきた。
せっかくだし、ありがたく借りることにした。
ゆっくり煙を吐き出すと、さっきのホテルでのことを思い出して、またそのモヤモヤしたものを吐き出すみたいに煙を吸い込んだ。
「お前、学生か?」
犬の散歩の途中だったのだろう。リードに繋がれた小さな犬が男の足元にまとわり付いていた。
「まあ…」
「高校生とか、言わねえだろうな?」
「まさか?よく言われるけど?」
じゃあ、なんでライター貸すんだよ?
…ま、いっか。
男も、それ以上追及してこなかったこともあったし、俺は口を噤んだ。
そして二人同時に煙を吐き出す。
その向こうで、なにか言いたげにこちらを見ている老夫婦と目があう。
「さて…とそろそろ行くか。」
「ありがとう…ございました。」
「何が?」
「…ライター。」
「ああ…。」
男は興味なさそうに返すと、何事もなかったかのように去っていった。