赫い月、蒼い夜
第1章 愛を探して
「だったら?」
「別に…何もないけど?」
「なーんだ、つまんない。」
「どういう意味だよ?」
「相手してほしいのかと思っちゃった。」
「あのな…俺は見ての通りヒマしてないんだ。お前がヒマそうにしてっから聞いたんだよ?」
「…それはどーも。」
苛ついたように答える男に、自分から聞いてきたくせに、とちょっとムカついた。
「…こんなもんかな?」
大きな独り言のあと、男が帰り支度を始める。
「家、近いの?」
大きめのショルダーバッグを肩に掛けながら男が振り返る。
「ああ…。」
俺は歩き出す男のあとに続いた。
「お前、もしかしてついてくる気なのか?」
「ダメなの?」
「ダメ…って…このあとどっか行くんじゃねぇのかよ?」
「やめた。」
「やめた…って、そんな身綺麗にしてて俺んちに来るとか…」
「別に普通のカッコじゃん?」
「どこがだよ…。」
確かに一見、普通よりはちゃんとした服装には見えるけど、
まさか、ハイブランドとまでは見抜けないだろうと思っていた。
「…勝手にしろ。」
「そうする。」
草臥れたパーカーを羽織る背中に続いた。
「え…ウソ!?」
「何がだよ!?」
まさか…ここに住んでる…とか言わないよな?
「どうしたんだよ?俺んちに来たかったんだろ?」
確かに言ったけど…
「どーせ、こんなタワマンみたいなとこに住んでるなんて思わなかった、ってんだろ?」
「みたい、じゃなくてタワマンじゃん?」
あれよあれよという間に俺らはエレベーターに乗り込み、
ある一室のドアの前までやってきた。