赫い月、蒼い夜
第1章 愛を探して
「適当に座っててくれ。茶ぐらいはご馳走してやる。」
「向こうの部屋でいい?」
「ん?あ、そうだな?」
俺が指差した方を見て、男は曖昧に相槌を打ち、
大きなショルダーバッグをやはり重そうに肩から外して床に置きキッチンに消えた。
何者なんだろう…?
俺は突き当たって、眺めが最高に良い部屋…
リビングの、ソファーに腰を下ろしながら窓からの景色に釘付けになっていた。
こんなにいい景色が見れるならあんなところで写真なんか撮る必要ないじゃん?
「…ほら、飲め。」
「…ありがと。」
手渡されたマグカップから仄かに漂うコーヒーの香り。
でも、味は残念なぐらいに薄いコーヒーだった。
「悪いな?買い置きがなくてさ…。」
男はバツが悪そうに唇を尖らせ頭を掻いた。
「いいよ?タダで飲めるんだからガマンする。」
「お前、どこ目線なんだよ?」
「ねぇ、さっきのワンコは?」
「ああ、アイツは俺のじゃないんだ。」
「誰の?」
「犬を散歩させるバイトしてんだよ?」
「生活苦しいの?」
なのに、タワマン住まい、って…?
「チゲぇよ?近所で世話になってる婆さんの飼い犬でさ?腰が痛い、ってんで俺が代わりに散歩させてんだよ。」
「だったら、ボランティアでやりぁいいじゃん?」
「しょうがないだろう?婆さんが出す、っていうんだから?」
男は空のカップを持って再びキッチンに消えた。
「気が済んだらとっとと帰れよ?」
「…分かった。」
薄くてお世辞にも美味しくないコーヒーを俺は、
窓からの景色を見ながらゆっくり堪能した。