このインモラルで狂った愛を〜私と貴方の愛の手記〜
第4章 予期せぬ婚約
※※※
あれから程なくしてデビュタント当日を迎えた私は、兄のエスコートで会場へと足を踏み入れると、驚きにその瞳を見開いた。
豪華絢爛《けんらん》な会場に驚いたのは勿論のこと、その会場に集まった人の多さに圧倒されたのだ。
このイヴァナ帝国は近隣諸国のどこよりも広い土地を誇り、その方々《ほうぼう》から今年十六になる貴族の娘達が集まってくるのだから、当然と言えば当然のこと。けれど、帝都にすら数える程しか来たことのない私にとって、これ程多くの貴族達を目の前にするのも初めてなのだから、驚くのも無理はなかった。
小さくコクリと唾を飲み込むと、繋いだ兄の手をキュッと握りしめる。
「大丈夫、緊張することはないよ」
「っ、……ええ。でも、皆が見ているわ……」
突き刺さるような視線に耐えきれずに少しだけ俯くと、そんな私を見てクスリと声を漏らした兄。
「皆が見ているのは、リディがあまりにも綺麗すぎるからだよ。……ほら、顔を上げて。せっかくのデビュタントなんだから、楽しまないと」
「ええ……」
私を気遣ってそう言ってくれる兄には申し訳ないけれど、この視線は恐らく私にではなく兄に向けられたものだろう。私とて、それくらいは分かっている。
社交界でも評判だという兄の容姿は、妹の私の目から見ても大変に美しく魅力的だと思う。そんな彼の姿を前にして、皆思わず見惚れてしまっているのだ。
その場にいるだけで人々を魅了してしまう人とは、本当にこの世に存在するのだ。例えばそれは、私の兄であったり……ウィリアムもまた、そうだった。
いや──彼はもしかすると、人ですらなかったのかもしれない。そう思ってしまう程に、恐ろしいまでの妖艶なる美貌の持ち主だった。
そんな懐かしくも美しいウィリアムの姿を思い浮かべると、私は俯いていた顔を上げると前へ向かって足を進めたのだった。
あれから程なくしてデビュタント当日を迎えた私は、兄のエスコートで会場へと足を踏み入れると、驚きにその瞳を見開いた。
豪華絢爛《けんらん》な会場に驚いたのは勿論のこと、その会場に集まった人の多さに圧倒されたのだ。
このイヴァナ帝国は近隣諸国のどこよりも広い土地を誇り、その方々《ほうぼう》から今年十六になる貴族の娘達が集まってくるのだから、当然と言えば当然のこと。けれど、帝都にすら数える程しか来たことのない私にとって、これ程多くの貴族達を目の前にするのも初めてなのだから、驚くのも無理はなかった。
小さくコクリと唾を飲み込むと、繋いだ兄の手をキュッと握りしめる。
「大丈夫、緊張することはないよ」
「っ、……ええ。でも、皆が見ているわ……」
突き刺さるような視線に耐えきれずに少しだけ俯くと、そんな私を見てクスリと声を漏らした兄。
「皆が見ているのは、リディがあまりにも綺麗すぎるからだよ。……ほら、顔を上げて。せっかくのデビュタントなんだから、楽しまないと」
「ええ……」
私を気遣ってそう言ってくれる兄には申し訳ないけれど、この視線は恐らく私にではなく兄に向けられたものだろう。私とて、それくらいは分かっている。
社交界でも評判だという兄の容姿は、妹の私の目から見ても大変に美しく魅力的だと思う。そんな彼の姿を前にして、皆思わず見惚れてしまっているのだ。
その場にいるだけで人々を魅了してしまう人とは、本当にこの世に存在するのだ。例えばそれは、私の兄であったり……ウィリアムもまた、そうだった。
いや──彼はもしかすると、人ですらなかったのかもしれない。そう思ってしまう程に、恐ろしいまでの妖艶なる美貌の持ち主だった。
そんな懐かしくも美しいウィリアムの姿を思い浮かべると、私は俯いていた顔を上げると前へ向かって足を進めたのだった。