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このインモラルで狂った愛を〜私と貴方の愛の手記〜

第4章 予期せぬ婚約




 先程見えたあの男性は、一瞬だったけれどその横顔はウィリアムの面差しによく似ていた。そう見えてしまったのは、きっと昨日ウィリアムのことを思い出してしまったせいなのだろう。
 都市リベラで任務に就いているはずの彼が、この帝都にいるはずもないのだ。仮に帰ってきていたとしても、帝都で騎士として勤めている兄が知らないわけがない。その兄から何も聞かされていないのだから、きっと私の見間違いだったのだ。
 そうは思っても、先程見た光景が頭から離れない。


(……いいえ、違うわ。あれは人違いよ)


 綺麗な女性を伴って歩いていた男性。その姿が、どうしてもウィリアムの姿と重なって見えてしまい、心の奥底に閉じ込めていた感情が湧水のように溢れ出てくる。


(あんなに辛い思いをしたというのに……っ。まだ、忘れられないというの? ……ダメよ、リディ)


 そう自分自身を説き伏せると、私は溢れ出そうになる涙を必死に堪えた。
 そんな私の姿を、妖しい瞳で兄が見ていたとも知らずに──。



─────


────



 それから夕刻頃に屋敷へと帰って来た私は、家族と共に夕食を終えると一人自室に籠っていた。
 今日見た光景がどうしても頭から離れず、私の脳裏に浮かんでくるのはウィリアムのことばかり。そんな自分が情けなくて、窓から覗く月明かりを見上げて小さく溜息を零す。


(忘れたはずよ……。もう、考えてはダメ)


 四年も音沙汰がないというのに、似た風貌《ふうぼう》の男性をチラリと見かけただけで、こうも私の心を掻き乱してしまうウィリアム。それ程に、私の中でウィリアムという存在は大きかったのだ。
 幼き日に出会い、まだ子供だった頃に突然の別れを迎えてしまった、あのウィリアムとの甘いひと時。恐ろしいまでの妖艶なる美貌や、彼の仕草。その陽だまりのような暖かな温もりは、こうして思い描くだけでこうも鮮明に蘇ってくる。


「元気にしていらっしゃるのかしら……」


 ポツリと小さな声を零すと、私は見上げた夜空にウィリアムの姿を思い浮かべながら、その懐かしい想いに胸を痛めたのだった。

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