このインモラルで狂った愛を〜私と貴方の愛の手記〜
第4章 予期せぬ婚約
「それでは、明日にでも正式な返事を送るとしよう」
「……ええ、お願いしますわ」
私がコクリと小さく頷いたのを確認すると、とても満足そうに微笑んだ父。これでこの話しは終わりとばかりに椅子に背をもたれかけさせると、テーブルに置かれたカップを手に取り紅茶を一口飲み込む。
そんな父の姿を静かに眺めていたその時、執務室の扉は軽やかな音色を響かせた。
───コンコン
「旦那様、ランカスター卿がおいでになられています」
───!!
扉越しに聞こえてきたその名前に驚いた私は、ビクリと肩を揺らすとその身を硬直させた。私の聞き間違いでなければ、今、この屋敷にウィリアムが来ているのだ──。
何故、突然父の元を訪れたのかは分からない。それ以前に、こちらに帰ってきていることすら聞かされていなかった私は、緊張から手に汗を握るとゴクリと小さく喉を鳴らした。
(ウィルが今、ここに……)
懐かしさと胸の痛みに複雑な表情を浮かべると、私はゆっくりと父の方へと視線を戻すと固唾を飲んだ。
「なんと、ランカスター卿が! ……わかった、応接室へお通ししておいてくれ。すぐに行く」
「では、そのように」
扉越しに交わされる会話に耳を傾けていると、そんな私に気付いた父が私に向けて優しく微笑んだ。
「……リディ、お前も来なさい。結婚が決まれば、もう会うこともないだろう。久しぶりに会っておくといい。きっと、ランカスター卿も喜ばれるはずだ」
「っ……はい、お父様」
複雑な心境のままそう答えると、私は父の後について執務室を後にしたのだった。