このインモラルで狂った愛を〜私と貴方の愛の手記〜
第2章 実ってゆく恋心
———コンコン
目の前の扉を軽くノックしたアーネストは、その口元に薄く弧を描くと室内にいる人物へと向けて口を開いた。
「ロード・ランカスター。リディアナ嬢がおいでになられました」
———カチャッ
程なくして開かれた扉から現れたのは、白銀の美しい髪を纏《まと》った、彫刻のように美しい美貌のウィリアム。彼はその瞳に私を捉えるとフワリと優しく微笑み、私の手を取ってそっとキスを落とす。
サラリと綺麗な髪を靡《なび》かせたウィリアムは、その唇を私の手元に寄せたまま少しだけ顔を上げると、その美しくも妖しい口元で優しく微笑んだ。
「やあ、私の可愛いリディ。待っていたよ」
まるで、天使か悪魔か——。
とうていこの世のものとは思えぬ美しさに、ゾクリとした寒気が背中を伝って小さく身体を震わせる。そのなんとも言い知れぬ美しさは、何度見ても見慣れる事などなく……。絡めとられた瞳を逸らせない私は、ただ、黙ってウィリアムを見つめ返す事しかできないでいた。
「さぁ、こちらへおいで。リディ」
立ち尽くす私を見てクスリと微笑んだウィリアムは、そう告げると優しく私の手を取って室内へと進んでゆく。
パタリと閉じられた扉の音を背中越しに聞きながらも、まるで私は入ってはならない領域にでも踏み入れてしまったかのような、そんな錯覚を覚える。
毎度訪れる度に感じる、この何とも言いようのないもの恐ろしさ。そんな恐怖心に薄々と気付きながらも、その未知なる恐怖への好奇心からか、または、ウィリアムへの強い恋心からだというのか……。
私は閉じられた扉を一度も振り返る事もなく、前へ、また一歩前へと歩みを進めたのだった。