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このインモラルで狂った愛を〜私と貴方の愛の手記〜

第2章 実ってゆく恋心

※※※



「随分と難しい顔をしているね、リディ」

「…………。どうしてナターシャは、エミリオを受け入れたのかしら……。それがわからないの」


 読み聞かせてもらっている本を前に眉間に皺を寄せると、そんな私を見たウィリアムが小さくクスリと声を漏らした。


「それはね、愛しているからだよ」

「愛……?」

「リディには少し早かったかな? 大人になれば、きっと理解ができるよ」
 

 私の肩にかかるプラチナブロンドの髪を一房《ひとふさ》掬《すく》うと、まるでガラス細工でも扱うかのように優しく掌からその髪を流したウィリアム。
 その瞳は穏やかに微笑んではいるものの、真っ直ぐに私を捉え続ける眼差しはとても妖艶で、まるで絡め取られてしまうかのような感覚にドキリとした私は、ウィリアムから視線を逸らすとその視線を自分の膝へと落とした。

 ウィリアムが私に読み聞かせてくれる書籍は、一人で読むには難しい歴史書などが殆どだった。けれど、最近ではこうした巷で流行っているという、ロマンス小説のようなものも含まれるようになった。
 大人の女性の嗜《たしな》みに必要なものなのだと聞かせられれば、私はウィリアムの言葉を信じて素直にそれを受け入れた。それ程に、大人の女性というものに強い憧れがあったのだ。

 けれど、今日読み聞かせてもらった本に出てきたナターシャとエミリオの物語は、私には到底理解ができるようなものではなかった。
 沢山の人を殺めて追われる身となったエミリオ。その彼の逃亡を手伝い、彼と共に辛く険しい道を生きることを選んだナターシャ。私には、そんな二人の姿が決して幸せだとは思えなかった。
 それがウィリアムの言う大人にしかわからない”愛”だというなら、私は大人にはなりたくはない。そう思う程に、二人の物語は私の持ちうる道徳心から逸脱したものに見えたのだ。


(私も……いつか大人になれば、この二人の気持ちが理解できるようになるというの? そんなの嫌だわ……)


 愛とは、もっと温かく穏やかなものなのだと。優しい両親の元で育ってきた私には、そういうものなのだと思えばこその憧れがあった。けれど、ウィリアムの言うように、この二人の物語も一つの”愛”だと言うなら——。

 到底理解できるとは思えぬ感情に恐怖すると、私は膝に置いた両手をキュッと握り締めた。

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