このインモラルで狂った愛を〜私と貴方の愛の手記〜
第2章 実ってゆく恋心
「さぁ、お茶にしようか。おいで、リディ」
私の耳元でそう優しく囁いたウィリアムは、私の返事を待つことなく私を抱え上げると、そのまま私を自分の膝の上へと乗せた。
侯爵家と伯爵家という身分差があるにも関わらず、こうして妹のように可愛がってくれるウィリアム。出会った頃は八歳だったということもあり、抵抗を感じる事もさほどなかったこの行為も、流石に十二にもなれば恥ずかしさが生まれる。
ましてや、家族でもなければ婚約者ですらない男性と密着するなど、貴族の令嬢ともあろう者が決して許されるような行為とも思えない。
けれど、そうは思っても言い出せないのは、やはりウィリアムへ強く心惹かれてしまっているせいなのだろうか……。
そんな自分の気持ちに薄っすらと気付きながらも、私は黙ってウィリアムのその優しさに甘えると、彼の優しい温もりを感じて頬を赤らめた。
「今日は、ローズティーにしてみたよ。リディの口に合うといいのだけど……」
そう言いながらカップに紅茶を注ぐウィリアムの所作はとても美しく、私はその様子に見惚れると静かに見守った。
耳元で聞こえる彼の伸びやかなテノールの声はとても魅惑的で、それは私の鼓膜を通して脳内へと甘美な刺激を与えると、トクトクと高鳴る鼓動と共に更に私の顔を赤くさせた。背後から伸びる腕と背中に感じる温もりは、まるで私を抱きしめているかのような錯覚を与える。
彼の所作一つ一つは見る者の心を奪い、その口から紡がれる言葉には一瞬で人々を魅了させる力がある。そんな魅力があることを、きっと彼は知らない。
貴族であれば当然ではあるけれど、彼は決して人前ではこうして自分で紅茶を淹れることはしない。人払いをした書斎でのみ、私の為だけに紅茶を淹れてくれるウィリアム。
そんな特別な時間が私にとってどれだけ嬉しいことか、彼は知っているのだろうか——?
そしてこの特別な時間も、ウィリアムの婚約が決まった時——あるいは、私の婚約者が決まってしまえば、簡単に失われてしまうのだ。
そう考えると、私の心に小さな影が落ちる。