戦場のミハイル
第2章 市街戦での孤立、息をひそめて生還せよ!
「……下着が……余計に冷たく感じるんじゃない?」
アナスタシアは自分から声をかけた
「……人肌同士のほうが暖まるかもしれないけど……、ナスチャはイヤだろ?ボクなんかと」
ミハイルは自分が彼女から好かれていないことはわかっていた
ペアを組んでからも余計なことは一切話してこなかった
それでもミハイルからすれば気は楽だった
他の女性陣たちのように下心丸出しで近寄ってくる者よりは!
実際この世界、男性は極端に減少していき老人か子供たちくらいしか見かけないのだ
成熟した女性たちが異性に興味を持つことは当然だ
ミハイルが配属されている本隊でも男性クルーは居ない
アナスタシアから見た自分の姿は、軽薄な男のように映ったことだろう
見下げられていてもおかしくない
だからミハイルは強気なアナスタシアの気持ちを否定するつもりは無かったのだ
この限界状況のなか、彼女の態度は軟化したように思う
いや生命力が極端に低下しているようだ
ミハイルは抱き合ってシートに身体を預けている相棒が弱っていることが心配だ
アナスタシアは何かを決心したかのように、静かに語りかけてきた
「ミーシャ……もう私……動けないの、下着も脱がせて……、冷えた布生地の感触が最悪だわ……」
「……わかったよ、しっかりしてナスチャ!」
ミハイルは薄暗いコックピットの中でもぞもぞと動き、彼女の残された着衣を脱がせていった
そして自分も下着を脱ぎ捨てると、再び防寒着にくるまり先ほどよりもさらに背中に腕をまわして抱きしめた
「……さっきより暖かいわ…、ありがとう」
「ナスチャ、大丈夫!ボクらはきっと本隊へ戻れるよ、だから頑張って!」
白い吐息
耳たぶは千切れそうに痛い
鼻の先までも冷え切っている
が、ふたりの肌が密着している部分だけはほんのり暖かみがあった
生き残ろう
ふたりは言葉に出さないものの、同じ意識を共有していたのだった…