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戦場のミハイル

第1章 辺境の村、その集落に未来はない

ミハイルがエカチェリーナと話し込んでいた時間はわずかだった


外からベロニカが呼んでいる

「? なんだろう?」


呼ばれたミハイルは何事かと玄関へ向かった


外へ出るとベロニカと母親のふたりが膝まずいている

正面には老人と中年男性の2名が立っていた


中年男性は上位役人の風貌なので老人の付き添いのように思われた

その老人のほうはと言うと、質素ではあるものの全身を長い衣服を引きずり儀式的なことを行う立場を思わせる


「誰ですか?」


「ミーシャ、畏れ多いよ、伏せなさい」

ベロニカの母親が震えるような声で声をかける


「キミがミハイル・グリンカか?」

ミハイルは何となくその場の空気を察して片足を地に着けた


「は、はい、ミハイル・グリンカと申します」

老人の声は低くしゃがれていたが、同時に落ち着いており優しい口調でもあった


そのとき老人の後ろで控えていた中年男性が声を掛けてきた


「ミハイル・グリンカ、私は中央の補佐官ゼムフィラ・ラマザノバだ、こちらにおわすは教皇パパ・リムスキー様であらせられる」


「き、教皇様ッ!?」


ニュースでしか見たことがない高貴なパパ・リムスキー!

こんな辺境の村に訪れるようなことは一度もない

それにゼムフィラと名乗る男性も、ニュースで見たことがある

国を動かすふたりの訪問者


教皇は落ち着いた物腰でミハイルに語りかけた


「ミハイル・グリンカ、私は君に残酷なお願いを伝えにきたのだ、どうか心安らかに聞いてほしい

私たちの愛する帝国が長いあいだ戦争をしているのは知っての通り

先だっていくつかの前線において壊滅的な攻撃を受けて、、、

とてもつらい宣告なのだが


君の兄弟、そして父親も尊い犠牲者となってしまった」



「え?」


ミハイルは目を見開いた


「家族を失うことは悲しい、本当に悲しい

心が張り裂けるようだ

そして君のように家族を失ってしまった人々はとても多く、みな深い悲しみの中にいてる……」


ああ、小さな頃からやさしく家族から愛されていた兄と父


ミハイルは家族を失ったことが信じられなかった


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