戦場のミハイル
第6章 ニコライ議員の私邸
「リーニャ、来週の非番かわって!」
ガリーナの胸に飛び込むように抱きついてきたのは同僚の少女マイヤ・プリセツカヤだ
「マイーニャ、またホスト通い?」
歳下のマイヤはお盛んな年頃だ
働いて得た金で男娼を買う
そして休み明けの勤務日に同僚のガリーナ・ウワロナに詳細な報告をするのだ
ガリーナは嫌がる素振りをみせるが本気ではない
本心はとても性的な内容に興味がある
マイヤのようにあけすけに話せればいいのに、といつも思うのだ
「今度の男は当たりよ!当たり!
顔はサイコーだし、声もすっごい低音なの!
それに、それに…
指がすごいの!もうわたし何回も天国へ行ったわ!」
「マニーニャ、仕事中なのよ!やめてよ」
ガリーナはそう少女の身体を押し返しながら
〈この街は幸せな場所だ〉と感じていた
内乱が数百年と続いているのにも関わらず、ここには戦争の悲壮感など皆無だ
ここ〈エカテリンブルク〉に住む住民は自由を謳歌している
幼い頃から貧しい辺境の村で育ち、成人後当たり前のように軍へ入隊したガリーナからすれば、自由とはとても不安定なものだと思える
芯がない、ふわっとした民心
逆に自分は芯は強いものの、柔軟に対応できず、自由な街で一年間暮らしていても、自分自身に自由など不要だった
確かに異性に興味はあるもののマイヤのように代わる代わる相手を変え、またセックスを売り買いするような真似は自分には出来ないと思っている
前線から離れてかなり経つが、それでもあの緊張感ある戦場が懐かしい
自分にとって自由な場所は戦場だったのかもしれない
ガリーナは思わず苦笑する
戦場好きの醜い身体のオンナを誰が求めるものか
異性と触れ合う可能性を避けてきているのは自分自身なのだ、と
ガリーナ・ウワロナとマイヤ・プリセツカヤ
同年代に近い2人だが、住んでる世界はまるで違っていた