戦場のミハイル
第6章 ニコライ議員の私邸
マリア夫人たちの寝室
「イーラは眠ってしまったわ」
「はしゃぎ疲れたんだね、何度も抱っこをせがまれたけど、前より大きくなった」
「………抱っこをせがむのはイーラだけじゃないわよ…」
ミハイルの背中に密着するマリア夫人
「一年も放っておいて……!」
「ごめん、なかなかまとまった休暇が取れなくてね」
「許さないわ、とことん私に付き合ってもらうわよ!」
「ああ、コーリャからもそうしてくれって言われたよ」
「コーリャはなんて?」
「また危ないことが起きそうだからマーニャとイーラを守ってくれって」
「……それだけ?」
「………マーニャが淋しがっている、て」
「そうよ」
「キミたち夫婦は、まったく……」
「政治家の結婚なんてそんなものよ、家族としての愛情はあるけど、それとこれとは違うわ」
ミハイルは背中から抱きついてくるマリア夫人を正面に抱き合う
「私が本当に愛しているのはミーシャだけよ」
「セックスが無くても?」
「全部含めて、ミーシャだわ」
「〈カミエーター〉のボクには断れないけど、最近は本来の目的が遂げられなくてね、自信喪失しているところさ」
「そんなことないわ、イーラも大きくなったわ」
「ああ、本当に大きくなったね」
「二人目を頂戴、ミーシャ」
ミハイルの胸に顔を埋めていたマリア夫人は顔を上げて口づけを交わした
カミエーター
神の愛を与える者
種子を放ち、伝え、拡げていく崇高な神職
人口が極端に減少していた時代、教皇パパ・リムスキーによって与えられた特殊能力
〈子供を与えよ〉
その副役が〈不老〉である
若い肉体に固定されたミハイル・グリンカはその力を女性たちに与えていくのだ
それは愛する者だけでは無い
自分の婚約者の姉、母親までも求めてくる哀しき役職
カミエーターとなったミハイル・グリンカだが、心の中は忘却の彼方を永遠に旅しているのだった