戦場のミハイル
第6章 ニコライ議員の私邸
夜
ニコライ当主の寝室からミハイルとニコライ家のひとり娘イリーナが扉を開けて出てきた
扉の前に待機していた侍女ソーフィアにミハイルは声を掛けた
「マーニャは眠っている、夕食は要らないようだ、代わりに夜食を用意してやってくれないか?
イーラを頼むよ、イーラ、晩ごはん食べておいで」
「かしこまりましたミハイル様、いつもの東の部屋をご用意してあります、お食事もそちらでよろしかったですか?」
「ああ、ソーニャ、いつもありがとう、助かるよ」
ミハイルはそのまま皆から離れて廊下の向こうまで歩いていった
頭を下げていた侍女ソーフィアの背後に近衛兵のガリーナがそっと近付いてきた
「……いつも……の事なの?」
「………詮索はしないで、マリア様も哀しい人なのだから」
「貴族階級の事はよくわからないけど、堂々としたものだな、後ろめたさは無いのか、彼は?」
「ミハイル様の事を悪く言わないで頂戴!」
「君も好いているのかい?」
「お屋敷の女は皆ミハイル様のことが好きよ」
「……ふぅん、私にはわからないな、当主を裏切っているように見えるんだけど……」
「来たばかりの貴女にはまだわからないわよ、それに…
ミハイル様はニコライ様公認なの」
「本当に?」
「お二人は昔からのご親友なのよ、ミハイル様はニコライ家を陰からサポートしていらっしゃるのよ」
「へぇ? 私には旦那が留守中にやってきた間男にしか見えないけどな、ふざけた関係だ」
「あなたはまだまだ子供ね、リーニャ
大人は複雑なのよ」
「そうかもね、戦場しか知らないわたしは単純な事しかわからない」
「戦争の話しがしたければミハイル様に聞けばいいわ、彼〈サンクトペテルブルクの悲劇〉の生き残りよ、リーニャの好きそうな凄惨な話しが聞けるかもしれないわよ
あ、でも話しをするのなら明日の朝のほうがいいわ、今から行ったら貴女から誘ってるみたいに見えるから」
「なんだよ、それ」
ガリーナはここの人間は面倒くさいな、と思った