魔法の玉
第3章 花火にムカつく女子
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ホントだったら、綺麗に打ち上がっていく花火に感動してるとこだったのに。
ホントだったら、ズラリと並ぶ出店(でみせ)を見ながら、何食べようか、何買おうかって、楽しく迷っているとこだったのに。
「はぁーあ。もう花火や出店どころじゃないよ……」
花火会場に近いとこにある神社。そこで開かれている夏祭りに来ているのだけど……
ワイワイと明るく賑わう人混みの中、私はトボトボと暗く生気(せいき)なく歩いている。せっかくの朝顔柄の浴衣も泣いている。
そんな私の隣では、
「バカでドジだよなぁ、七海(ななみ)は。賽銭箱に千円札を入れるつもりが、誤って一万円札を入れちまったなんてさ。はははっ。どんだけ神頼みだよ。しょーもねぇの」
足並みを揃えて歩く圭太(けいた)が、昔から自身の好物であるリンゴ飴を美味しそうにかじりながら、私をあざ笑う。
この男、マジでムカつくっ! 『ドヤ!』と自信満々に着こなしているその深緑の浴衣にも、なんだか腹が立ってくるわっ!
「だからぁ、私がバカでドジのせいじゃなくて、あの花火のせいなんだってばっ。いきなりどデカい音を出してきたから、ビックリして手元が狂ったんだものっ」
「いや、いきなりでもねぇじゃんか。神社にまで聴こえるアナウンスが、ちゃんと5からカウントダウンしていったわけだしさ。な?」
「ぐっ……!」
悔しいけど、ごもっともすぎて、何も言えない。
何よ。何よ何よっ。幼稚園から今通う高校まで一緒の幼なじみなんだから、その好み(よしみ)で、慰めの言葉の一つぐらい私にくれたっていいじゃないよ。その真っ赤なリンゴ飴だって、一口ぐらい私にくれたっていいじゃないよ。
ドンッ! ドドドンッ!
「あぁもうっ、うるさぁーいっ!」
イライラしてくると、花火の音も、だんだんと耳障りなものになってきた。
「生理前でもねぇのに、イライラすんなよ」
「っ! アンタはもっとうるさいっ!」
はぁ……。このままだと、夏の花火が、嫌な思い出しかない風物詩になりそう。