魔法の玉
第3章 花火にムカつく女子
「乗るって、何に?」
「俺の背中にだよ。おぶってやるから」
「え、嘘でしょ? 人が大勢いる中で、いい歳こいた女子高生がおんぶって。恥ずかしいにも程がある。しかも今ので、ちょうど注目されてるし」
「けどさぁ、下駄がそれじゃあ歩けねぇだろ。つべこべ言わずに、とっとと乗りやがれっ」
「きゃっ。ちょっと、そんな強引に引っ張んないでっ――」
ドォン……!!
な……何?
圭太の背中にくっついたら、胸が強く打たれた。
打ち上がった花火の音と共に……。
慣れない感情に戸惑う。けど、圭太はそれに気づかずに、リンゴ飴を大事に持ちながらも、器用に私をおんぶして歩き出す。
「や、やだっ。もういいって。なんなら、裸足で歩くからっ」
「うるせぇ、黙っておぶられてろ」
「なっ……」
なんなのよ、圭太のヤツ。いつもテキトーでふざけてばかりのクセに、ここぞとばかりに男らしくなるなんて。
背中だって……頼もしい広さだし。
胸が苦しいぐらい押し潰されてきて、つい黙り込む。と、圭太が前を見たまま、独りごちるように私に話しかけてきた。
「まったく。俺が昔っから一番近くで、七海のことをずーっと見てるってのに」
「……えっ?」
ドォン……ドンッ……!!
「なのにお前は、俺の気持ちに気づきもしないで、縁がない、縁がないって騒いでばかりで」
「圭太、何言って……」
ドンッ……!!
ことあるごとに、花火の音と連動する、私の胸の音。
「ねぇ、待ってよ。俺の気持ちって……それ、どういう意味なの?」
「どういう意味って…………そういう意味だよ。察しろよ、バカ七海っ」
「っ……!」
ウソ。
女のコに群がられても顔色一つ変えたことのない、あの圭太が……持っているリンゴ飴の色と同じぐらい、耳の後ろまで真っ赤になってる。
ドォン……!!
もうっ、さっきからうるさいってばっ。うるさい、うるさいうるさいうるさいっ!
花火の音も、胸の音も、いい加減静まってよっ。
ホントに、ムカつくんだからっ……!
じわじわと熱くなってくる気持ちを隠したくて、圭太の広い背中に、顔を埋めた。