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魔法の玉

第3章 花火にムカつく女子


「あぁっ……すみませんっすみませんっ! お怪我はありませんかっ!?」


 頭をペコペコしながら謝ってきた。


「ないけどさぁ、でもっ、」

「そうですか、良かった。それは何よりです。もし万が一、お体等に何かありましたら……こちらにご連絡を下さい。それでは僕、急ぎますのでっ。本当にすみませんでしたっ!」

「……はいっ?」


 会社員は余裕なさそうに捲し立てると、カードみたいな物を私に押し付けてきた。そして、すぐさま走り去っていってしまった。

 ……って、何それっ!


「あんなに突き飛ばしといて、謝罪それだけぇ!? ちょっと待ちなさいよっ! 青い顔するぐらいの罪悪感があるのなら、もうちょっと何かあるでしょっ……、わわっ」


 立ち上がって追いかけてやろうとしたら、足に力が入らなかった。何で?


「……あぁーっ! 鼻緒が切れてるぅっ!」


 しかも両方の下駄とも、思いっきりぶっち切れてて、修復するのも難しそう。

 酷すぎる。浴衣に合ってて気に入ってたのに。もう、とことんツイてない。


「七海、スゲーのな。大人相手にあんなに怒鳴りつけて。俺の出る幕がなかったぞ」

「だって突き飛ばされたんだよっ? そりゃあ怒鳴るわよっ」

「はははっ、さすが七海様。気が強いのなんの!」


 圭太に茶化されて、ハッとした。

 ひょっとして、いつまでも恋に縁がないのって、この気の強さが原因だったりするのかも。友達からも、『そこらの男子よりも男前』ってよく言われるし。


「……おっ。そのカード、よく見たら名刺じゃん」

「え? ……あ、ホントだ」


 白い名刺には、『山内 照久(てるひさ)』という名前はもちろん、会社名、住所や電話番号、メアドまで、ご丁寧に記載されてある。


「だったらそこに連絡してさ、下駄代を請求すればいいじゃん。……あ。なんなら一万円貰えば? したら、マイナスプラスでゼロじゃん。やったな!」

「バカ。やったな、じゃないよ。そんなんで一万円を取り戻すなんて、いくら何でも嬉しくないし」

「はははっ、だよな。冗談だよ、冗談。
 それよかさ……ほれ、乗れよ」


 と、圭太が私に背を向けて、少し屈む。意味がわからない。


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