魔法の玉
第1章 魔法の玉
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「あのな、息子よ。今まであんまり話さなかったけど、父ちゃん実は……夏祭りのために、毎年、魔法の玉を作ってるんだ」
ゴロゴロしながらマンガを夢中になって読んでいたら、帰ってきた父ちゃんが、ごっつい顔と体に似合わない、ヒソヒソとした小さい声で、オレにそう言ってきた。
「えぇっ、何それーっ!」
魔法の玉って、まるでゲームのアイテムみたいじゃん!
それを、オレの父ちゃんが作ってるなんて、スッゲー! 小学校で友達に自慢できるぞ!
夢中だったマンガを、あっという間にほっぽりだす。オレはもうワクワクしながら高速ハイハイして、あぐらをかく父ちゃんに近づいた。
「いいか。魔法の玉ってのはな、ドーンと空に打ち上げると、多くの人間の感情を一気に引き出せるんだ」
「……へ? カンジョウ?」
「あぁ、そうだ」
オレ、カンチョーなら知ってるぞ。いつも友達のケツに指をぶっ刺して遊んでるから。と言ったら、父ちゃんは今度は、ごっつい顔と体に似合う大きい声で、ワッハッハとゴーカイに笑った。
「お前にもそのうち分かると思うけどな。魔法の玉によって引き出せる感情は、人それぞれなんだ。
あるヤツは、わーいと喜び。
またあるヤツは、ジーンと感動し。
苦い思い出があるヤツは、ズーンと落ち込み。
嫌いなヤツは『うっせー!』と怒り。
お前よりも小さい子供は、怖くてエーンと泣いて怯え。
バカップルはロマンチックな気分に浸り、イチャイチャチュッチューってなったりするんだ。
どうだ、スゲーだろ!」
「ぶっ……だははははっ!」
全然意味がわからないけど、ごっつい父ちゃんが、いちいち変な顔をするのが面白れー!
特に、最後の『イチャイチャチュッチュー』の顔が、ひょっとこみたいで、超ウケる!
「父ちゃんっ、今のもう一回やってー!」
「だからな、わーいと喜んだり、ジーンと感動したり、エーライヤッチャと踊ったり、」
「えーっ!? さっき、エーライヤッチャなんて言ってなかったじゃん!」
「そうだったか? いやだから、イエーイとハジャイだり、うっそーんと驚いたり……」
オレはそのあとも、父ちゃんのいろんな顔芸を見て、ずーっと腹をかかえてゲラゲラ笑っていた。