魔法の玉
第1章 魔法の玉
最初はただ、親父の顔芸に腹を抱えてゲラゲラ笑うだけだった。親父からも、『お前も花火師になれ!』とか言われたこともなかった。
なのに……花火玉に愛称を付けて、我が子のように可愛がりながら作る親父の姿を、近くでずっと見ているうちに、いつからか、花火師という夢を、キラキラと描くようになったんだよな。
しかし、俺が初めて夢を打ち明けた時の、あの親父ときたら……
(父ちゃん! オレも父ちゃんみたいな面白え花火師になって、みんなのカンチョーを引き出す魔法の玉を作りたい!)
(ばっ……バカ野郎っ! みんなのカンチョーを引き出してどうすんだっ! 感情だっつーのにっ!
ホント、お前ってヤツはよぉ……うっ、ぐすっ……おーいおいおいおい……)
(だははっ! 父ちゃんの泣いてる顔、超汚い!)
(うるせえっ、ほっとけ!)
ごっつい顔をグッシャグシャにして、嬉しそうにおいおい泣いたりしてさ。たくっ、大袈裟だっつーの。
「……っ」
やべえ。俺も親父のことを笑えなくなってきちまう。
親父が天に行ってから随分経つってのに。思い出を振り返っただけで、いとも簡単に込み上げてきやがる。
ドーンと打ち上げると、魔法のように多くの人の感情を一気に引き出せることから、花火玉に名付けられた『魔法の玉』。
それなのに俺、ドーンと打ち上げる前から、シクシクと泣きたい感情を引き出されちまうなんて。あまりにチョロすぎで、情けねぇったらありゃしねぇ。
こんな湿気たツラ、弟子達に見られたりでもしたら、また『親方ぁー、締まりがないっすよー!』とか言われて笑われちまう。早く引っ込んでくれ。
だが幸いなことに、俺の涙よりも、会場のアナウンスの方が、先に流れ出した。
『会場にお越しの皆さーんっ! 大変長らくお待たせ致しましたーっ! 花火大会、もう間もなく開催です!
打ち上げまでのカウントダウンを、5から数えていきますので、皆さん、ご一緒にお願いしまーすっ!』
元気ハツラツなアナウンスを耳にしながら、手の甲で涙を思い出ごと拭い取る。『親父の息子』から『花火師の親方』に戻った俺は、弟子達に点火用意の指示を出した。
……親父。今年も魔法の玉を派手に打ち上げて、いいも悪いも、多くの人の感情を一気に引き出すからな。天から見守っていてくれよ。