短編集 一区間のラブストーリー
第16章 短編その十六
「遅いじゃないですか!」
俺は怒ってるんだぞという意思表示のために
ベッドの上で 家政婦さんに背を向けたまま
ぶっきらぼうに言った。
「すいません…道に迷っちゃって…」
「!!!」
え?意外と若い声
俺は声のする方を振り返ってみた
そこには俺と同い年ぐらいの女の子がいた!!
「え?なに?君が家政婦さん?」
「はい…」
こんな若い子の家政婦なんて
見たことも聞いたこともないぞ。
彼女が説明しはじめた
「私、ヘルパー学科を専攻してるんです」
どうやら家政婦のバイトは
実務を兼ねて一石二鳥なのだろう
「とりあえず食い物を作ってよ」
「私、恥ずかしいんですけど
お料理が苦手で…
コンビニでいいですか?」
「じゃあ、この先の交差点に
コンビニがあるから
そこでなにか買ってきてよ」
俺は彼女に財布を渡して買い物に行かせた
彼女が出て行ってからハッと気づいた。
初対面の女に財布を渡しちまったよ…
そのまま持ち逃げされたらどうすんだよ
『俺ってバカだ』
だがそんな思いは杞憂に終わった
数分後、彼女はコンビニ弁当を片手に
部屋へ戻ってきた。
『案外、まじめというかピュアというか…』
痛いのは足だけだから
自分で食べれるというのに
彼女は「食べさせてあげる」といって
俺に食事をさせ始めた
だが今時のギャルらしく
箸の使い方のまずさで、
けっこう俺のパジャマの上に
ボロボロとこぼされてしまった。
「ごめんなさい、
お着替えのお手伝いさせていただきます」
「当たり前だよ。
ミートソースやご飯粒だらけじゃないか…
あ!そうだ、俺、昨夜は入浴できてないから
体も拭いてもらおうかな」
我ながら妙案だと思った。
ギャルに身体を拭かせるなんて
ちょっとした風俗気分じゃないか。