短編集 一区間のラブストーリー
第19章 短編その十九
『ハッ!!いかん、いかん!
こんな暗い顔で
お客様のお宅を訪問しては失礼だ』
顧客の一人である西木あかねの
インターフォンを押す前に
朝比奈はとびっきりの笑顔を作った。
「こんにちは
徳井百貨店の朝比奈でございます」
『あら?朝比奈さん・・・
今日は?いったいなにかしら?』
インターフォンの声は怪訝に満ちていた。
自宅訪問日以外に訪ねてきたのだから
仕方ないことだ。
「大事なお話がございまして・・・」
語尾を濁らすうちに玄関のドアが開いた。
「急に来るんだもん、びっくりするじゃない」
急な訪問にも関わらず、
西木あかねは屈託のない笑顔で
朝比奈を迎え入れた。
玄関でかしこまってると
「ほら、何してんの?あがってよぉ~、
今、お茶を淹れるからね」
いつものように暖かく迎え入れられた
外商部員とお得意様とはかなり親密な関係だ。
家族同様といってもよいだろう。
そういう関係を築けなければならないのだ。