ペニクリを愛して
第2章 ニューハーフの扉
「どう?お仕事には慣れた?」
店の状況を確認しにきたオーナーの
水無月冴子は
マネキンに洋服を着せていた私に
声をかけてくれました。
「大好きなお洋服に囲まれて
楽しくお仕事をさせていただいてます」
営業スマイルではなく
屈託のない笑顔で私はそう答えました。
「そう、それはよかったわ。
あなた、今夜のご予定は?」
「とくにありませんけど・・・」
「そう、それなら今夜、
夕食を一緒にどうかしら?」
オーナーから食事に誘われるなんて
ビックリです。
もちろん私は断る理由もないので
二つ返事でOKしました。
オーナーに連れて行ってもらったお店は
ジャズの音楽が流れる洒落たお店だった。
最初は堅くなって
会話もオーナーの問いかけに
「はい」とか「いいえ」とだけ答えるなど、
ほんとにぎこちなかったのですが、
ワインをいただいているうちに心も解れ、
デザートをいただく頃には
お互いのことを「京平ちゃん」「冴子さん」と
名前で呼ぶほどの仲になっていました。