白い飛沫(しぶき) ~初恋物語~
第1章 プロローグ
「僕は・・・
毛は、まだ生えてほしくないな」
本当に、僕は毛など
生えてきてほしくなかった。
まだもう少し、
大人の入り口に立ちたくなかった。
子供の時間をもっと楽しみたかった。
毛が生えてきたら大人の仲間入りじゃん。
そうしたら、
もう駄菓子屋に通うのも
出来なくなりそうな気がした。
テレビの番組もアニメを見ずに
カッコつけて「NHKのニュース」を
見なけりゃいけない気がした。
「なに言ってんだよ。
毛が生えなきゃチューもできないんだぞ」
「チュー?」
「キスだよ、キス。
毛のない奴に、
キスする資格はねえんだからな」
それは困った。
新クラスの、隣の席の川原理恵って子は
とてもかわいい子だった。
手を繋いでデートをして、
夕暮れの公園でキスしてみたいと思っていた。
「毛が無いとキスできねえのか?」
「当たり前じゃん。
毛が生えてない奴は男じゃなく、
男の子なんだ。
キスってのは、男と女がするもんなんだ」
「じゃあ、女子も
毛が生えてなきゃダメなんだな?」
「んっ?だ、だな。
女子も毛がなきゃただの女の子だ。
女じゃねえ」
「キスする前に、
毛、生えてる?って
聞かなきゃなんねえのか?」
「その心配はいらねえ。
兄貴に聞いたんだけど、
毛の生えてる女はいい匂いがするらしいぞ」
ほんとかよ。
心の中で呟いて、
僕たちは中学校の校門をくぐった。