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神の口笛

第10章 10


「とにかく入って。」

「いいよ、ここで。」

「だめだよ、風邪ひいちゃう」

彼は「じゃ…じゃあ…少しだけ、お邪魔します」と控えめな歩幅で部屋に入る。


レイモンドは小さな暖炉に髪を当て、わしゃわしゃと雨水を払った。

むせかえるような甘い香りに一瞬、理性が飛びそうになる…――。


「古い切手を見つけてね。デワトワ国の消印なんだ。」

濡れないよう上着の中にひそめていた小さな絵葉書を取り出しながら彼は言った。

興味深そうに見ているエマに手渡す。


「本当だ…。」

「この王宮に暮らしていた誰かが、デワトワ人からもらった物かな。」

とても古いそれは文字が読み取れないほど擦り切れていたが、レイモンドが言うにはこれは恋文らしかった。


「すごいね。」

「あぁ。僕も…エマともし離れることになったら、こうして手紙を送るよ。」

ははっ、と笑う彼の整った唇の奥に、また上品な舌がのぞいていた。







……


………



2年後―――


エマは25歳になっていた。

1年前、グレイを含む兵士たちが北の地へ向かったと知らされたが、それ以降なんの知らせもなく、ただただ年月が過ぎていく。

ここでの生活はなにも変わらないが、それだけにエマはもどかしい気持ちでいた。


この宗教戦争に終わりはないのか…。

北の地へ行ったと知らされてから、当然だがグレイの伝令はなくなった。会えなくなってもう1年半になる。



「それでね、昨晩クリスが訓練の後にこっそり来てくれたの」

今日もウキウキと恋の話をするエイミーは、でもどこかいつもと違った様子だった。


「バレなかった?大丈夫?」

これまで二人の逢瀬が外部に漏れたことはないが、護衛としてはエマも心配になってしまうところだった。

「ばっちり。それでね…」

「どうしたの?」


エイミーは、昨晩初めてクリスと体の関係を持ってしまったことを告白した。

嬉しそうでもあり、なんだか焦っているようでもあった。

こんな事がもし国王に知られたら…クリスはただでは済まないだろう。


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