神の口笛
第10章 10
もしもの時には王女を護衛しなければならない。
エマはソファのわきに置いていた弓矢を即座に手に取った。
「あっ!」
エイミーの瞳が輝く。
「大丈夫よ、エマ。敵なんかじゃない。」
軽い足取りで迎えに行った彼女は、おずおずと恥ずかしそうにしている青年の手を引いて戻ってきた。
エマは初めてクリスを見た。透き通るような金色のサラサラとした髪に、真っ青の瞳。
その色はルイを連想させた。
途端にガルダン基地や兵士たちがどうしているのか気になり、切ない気持ちにもなった。
「は…初めまして…。クリスと言います。」
エマの目を見たり見なかったり、落ち着かない様子で彼は言った。
「エマです。エイミーの護衛をしています。」
「んもう!エマの事はいつもクリスに話してるんだから、知ってるわよね?ふふっ」
「うん。」
クリスは照れたように微笑んだ。あどけないその表情は、確かに兵士としての貫禄がまだ心もとない。
「私はそろそろ行くね」
エマは気を遣って部屋を後にする。
2人と挨拶を交わし、扉を開けたその瞬間、大きな人影が目の前に立ちはだかっていた。
まるで顔の皮膚が金属になったように固まってしまう。
「こ…国王様…っ」
エマの声を聞き、部屋の中にいた2人がガタンと大きな音を立てて立ち上がったのが分かる。
「おうおう、エマ君よ。いつもエイミーの護衛をどうも。」
立派な口ひげをたくわえた恰幅のいい国王は、威厳のある声でそう言った。
「い、いえ。とんでもございません。」
少しの冷静を取り戻し、敬礼をする。
しかしこのまま国王が部屋に入れば、クリスとの関係がバレてしまうかもしれない。
どうしよう…。
と思ったのも束の間、なにも知らない国王は堂々と部屋に入ってきた。
「エイミー。明日は見合いの相手が…――――」
一瞬の沈黙。
誰も国王を直視できないような空気。
ゴゴゴと地響きがしてくるような圧だった。
「お父様…っ」
沈黙を破ったのはエイミーだった。
「どうして下っ端の兵士がここにいるのだ!!?」
大きな怒鳴り声に、エマもとっさに目をとじた。