神の口笛
第1章 1
…
訓練が終わり、いつものように祈りの儀式と湯浴みを済ませたグレイは慰安婦の部屋へ足を運んだ。
棟内の片隅にある階段から下へ降りる。
何人かの男とすれ違ったり、駆け足の者に追い抜かれたりした。
せまい廊下づたいに7つの赤い扉があり、わきには小さな一輪挿しが置かれている。
ここの仕組みは軍入りの際の説明で知っていた。
一輪挿しに赤い花が刺さっている部屋は、「どうぞお入りなさい」という合図だ。
一番奥の扉をあける。
グレイは案外緊張していなかった。
「あら、とっても男前さん」
素っ裸に肌襦袢のような薄い浴衣を羽織っただけの女が、ベッドの上で微笑んでいた。
「お座んなさいな」
促されてベッドに腰かける。
小窓の外には未だ激しく降り続く雨の線が見えた。
歳の頃は30近いだろうか。
さすがは慰安婦、むせるほどの色気が充満している。
「こんなところに来なくっても、相手には困らないでしょう?ふふっ」
「いや…」
「良いのよ。気持ちよくしたげるから」
女はほとんど丸出しの乳房をグレイの腕に押し付け、唇を寄せてきた。
顔をそむけると「キスは好きじゃないのね?分かったわ」と女はまた微笑んだ。
華奢な手が脚をつたい、股間に差し掛かる。
慣れた手つきにまさぐられながら、グレイは違和感を感じていた。
「あら…元気がないわ。緊張しているの?」
昨夜エマと眠る時には硬く反応していたそこが、今は生気をなくして眠っている。
「ああ…。そうかもしれない。」
本当は緊張などしていなかったが、グレイは女に気を遣ってそう言った。
「お口でしたげる。ねっ?」
「…いや、今日はいい。少し話でもしないか」
女はふふっと笑い、「もちろんいいわ」と言って股間から手を離し、ごろんとベッドに横たわった。
「あなたも横になったら?」
ああ、と返事をしつつも、グレイは座ったまま体勢を変えることはなかった。