神の口笛
第1章 1
…
「ね、本当になにもないの?」
「なにが?」
「だからぁ、グレイさんと。たまに泊まってるの知ってるんだから。今朝だってギリギリに戻ってきた」
「いつも、本読んでもらってる。グレイすごく上手なんだ」
「そういう事じゃなくてぇ…」
「何のこと?」
「男女の関係よ!もう、エマってばはっきり言わなきゃ分かんないんだから。鈍感すぎ!」
「性行為ってこと?」
「SEXって言いなさいよ。こっちが恥ずかしい」
そういうものなのか。とエマはこのとき知った。
孤児院と軍学校であった性教育ではいつも性行為とか性交渉と言っていたから、SEXという言い方には馴染みがない。
ただ、食堂や女風呂で耳にすることがあったので知ってはいる言葉だ。
「私とグレイが…SEX?」
「そう!」
「した事ないよ」
「本当かなぁ。アヤシ~」
「私、そういうのした事ない。グレイとっていうか、誰とも」
「…えぇえーーっっっ?!」
夕食時だったのでステラの声は食堂中に響いた。
「ちょっと、ビックリするじゃん」
「だってだって、エマ…。…いや、疎いなぁとは思ってたよ?そういう事にさ」
「疎いもなにも、ステラだって無いでしょ?」
「失礼しちゃう!私は毎週のようにあるよ?」
「…嘘?」
「本当だってば!泊まりはしないけどね。点呼に遅れたくないもん」
ステラは熱心なクベナ信者であり、屈強な戦士でもあり、訓練に対する姿勢も真面目だ。
今目の前で、男よりも多そうな量の食事をたいらげていくこの彼女が、まさか…。
エマは言葉が出ず、あんぐりと口をあけたまま放心した。
「なにその顔。そんなに意外?」
「うん」
「即答ね…。っていうか、ヴァージンの女なんて滅多にいないと思うよ?むしろエマがマイノリティだね、間違いなく。」
ショッキングだった。
大浴場で見たあの幼い貧乳女兵士も、訓練で根性を見せたあの太った女兵士も、もしかしたら既にヴァージンを卒業しているのか…。