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神の口笛

第11章 11


5年後―――…




この世界戦争が始まって5年が経ち、エマは28歳になっていた。

レイモンドは婚約していた相手と正式に結婚したようだが、姿を見る機会は無いままだ。




「エマ…寂しくなるわ。とっても」



―――年も終わる白の季節、ついに戦争が終わった。―――



無作為に襲撃を繰り返していた革新的な組織が壊滅したらしいのだ。

もっとも、この王宮にこもりきりだったエマには現実感が無かった。



「私もだよ。もっと字を覚えて、手紙を書くね。あっでも…私なんかが王女様に手紙なんて」


「ううん!絶対に送ってよ!私、待ってるわ。すぐに返事を書くからね」


5年間、毎日毎日いっしょに過ごしたエイミーとも、終戦を機に別れることになる。


あの、小さくも愛おしい部屋とも…。




名残惜し気にベッドや扉を指で撫で、小窓からむこうを見渡した。


いつも、ドアをノックしてこの小窓の向こうで微笑んだレイモンド。



そして一度だけ…

あれは夢だったのかと思うほど時が流れてしまったが、一度だけグレイもここへやって来たんだ。



真っ赤な夕陽に照らされた、背の高い影が蘇る。


ああ、グレイ……


会いたいよ…―――




別れの日、「互いに生きてまた会おう」と言った彼の言葉を思い出し、また涙が込み上げた。











「エマーーっ!!!!」


ガルダン基地へ戻り、正門を入った瞬間、ステラが飛んできた。


「ステラ…っ!!」


強く強く抱き合う。会えるのは5年ぶりだ。


言葉もなく、とにかくこの再会にしばし感情を委ねた。





それからソフィアやオリバーのところにも顔を出し、すっかり陽は落ちる。


久しぶりのガルダン基地、東棟の食堂。


ここにいる頃はなんとも思わなかったが、今は懐かしさに胸が弾む。




だけど……


「グレイも…ルイも…いないんだよね」


目元にどんよりと影を落とすエマに、ステラも眉を下げた。


やはり彼らは北の地へ戦に出たまま、今も消息が分からないと言う。


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