神の口笛
第11章 11
強い兵士が出払ったタイミングでこのガルダン基地も襲撃を受けたらしく、外壁などにはその爪痕が残っていた。
「今はその修復を進めているところなの。訓練か修復作業か選べるよ」
なるべく明るいトーンでステラがそう伝えた。
明日からまた、ここで兵士として過ごすんだ。
グレイのいない、この場所で…―――
…
レイモンドとの出来事を思い出さぬよう、エマはただひたすらに訓練を重ねていた。
もう迷わない。
グレイを待ち続けると決めた彼女は、これまでにも増して弓矢の腕を上げていく。
しかし…
もうすぐそこに火の季節が迫った頃、北の地からの伝令がガルダン基地へ届く。
それにより、グレイと思われる亡骸が発見されたと全兵士に通達がなされた…―――
…
翌年―――
「エマ、29歳おめでとう!」
もうじゅうぶん1人部屋を与えられるほどの身分になったエマとステラだが、一緒が良いという希望により未だ2人同じ部屋で過ごしている。
「ありがとう」
あの日の朝礼、グレイの訃報が知らされた瞬間で、エマの記憶はぷつんと途切れている。
気付くと部屋に寝かされていて、そばでは介抱してくれたらしいステラがうたた寝をしていた。
グレイと最後に会ってからもう、5年以上の月日が流れてしまった。
彼の訃報を知らせる伝令のあと、北の地へ出向いていた兵士たちが帰って来た。
24名が派遣され、戻ったのはたったの5名だった。
グレイの隊にいた兵士の話を聞いても、戦地では皆が散り散りになりもうワケが分からなかったのだと言うばかりだ。
戦闘は非常に過酷なものだったらしく、精神的にふせってしまった者もいる。
ガルダン上層部としても、もう見込みはないとの判断で捜索隊も出されずにいた。
結局、グレイもルイもここへ戻って来ることが出来ないまま、遠い北の地で生を終えたのだと皆が口々に言った。