神の口笛
第12章 最終章
基地内には35歳になったエマと、同い年の兵士たちが整列している。
退任式だ。
上層部の者たちがうやうやしく言葉を述べたり、若い兵士の代表が見送りの挨拶をする。
エマたちは1人ずつ賞状を受け取り、やがて式が終わった。
麻袋に詰めた少ない荷物を持ち、長いこと過ごしてきたステラとの2人部屋に別れを告げる。
「エマ…!」
東棟を出てすぐ、名を呼ばれた
その声に、これまでの訓練や戦の光景が走馬灯のように蘇る。
それは不思議と嫌なものではなく…むしろ、エマの心をきゅっとときめかせるほど微笑ましいものだった。
「ビアンカ…」
姿勢よく立っているビアンカが、不器用な笑みを投げかけている。
言葉は要らなかった。
最初で最後となる2人の敬礼は、びしりと切れがよい。これまで戦い抜いてきた兵士そのものだった。
年下のビアンカはあと3年、この基地に残る事になる。
彼女とはいざこざが絶えなかったが、今ではすっかり頼もしくなった姿で見送ってくれた。
「退任おめでとう。本当によくやったな。」
正門の前ではすっかり軍服を脱ぎ去り一般人の出で立ちとなったグレイが待っている。
「さぁ、行こう。2人だけの家を建てよう。」
微笑むエマに差し出される大きな手―――
エマは迷わずその手を取った。