神の口笛
第1章 1
「それにしても、ここへ来て何もしない人なんて初めてよ。ずっと元気ないの?」
「いや、昨晩は…」
「あら。へこむわ」
そう言いながらも、女はリラックスした表情でグレイを見送った。
一晩に何人も相手をすると聞かされ、大変な仕事だと他人事のように思いながら廊下へ出る。
”女にとっても性は喜びなのよ”という女の言葉が耳に残っていた。
「あれっ?!めずらしい奴がいるな!」
同僚から声がかかった。
明るくて憎めない男ではあるものの、北棟では一番のお喋りとして有名でもある。
厄介な奴に見られてしまったが、特に弁解はしなかった。
長話に捕まる前に去る。
自室のベッドに潜り込み、試すような気持ちでエマの素肌の感触を思い返した。
さらりと心地よく滑る肌…
みぞおちまで登ると、すぐに膨らみの予感があり、そこで手を止めた…
エマは一瞬、背筋を浮かせて反応し…
―――これ以上は必要なかった。
さっきまでうんともすんとも言わなかったペニスは熱く硬直し、生成りの衣類を押し上げている。
グレイは苦笑した。
ここで自慰をすればスッキリ眠れるのだろうが、出来なかった。
エマを汚してしまうようで……。
…
翌日、食堂で朝食をとる女兵士の間では「グレイが慰安婦部屋に行った」という話題で持ちきりだった。
見てくれだけの話だが、東西南北のブロックではそれぞれで人気のある男兵士がいて、グレイはもうずっと北ブロックのダントツ人気だ。
指導は非常に厳しいものの、女っ気を感じないクールな面や、寡黙な印象も憧れられる要因らしい。
そんなグレイが慰安婦部屋に…というのは女兵士にとって一大ニュースで、朝からギャーギャーと騒ぎ立てている。
「あのグレイさんが…」
「まさか!」
「どこからの情報?!」
「ゲイだと思ってた…」
「グレイさんでも欲情するんだ」
「その慰安婦、超ラッキーじゃん」
様々な声が行き交う中、エマは黙々と朝食のパンを口に詰め込んでいた。