神の口笛
第1章 1
「あ、ルイおはよう」
エマとステラとルイは普段から仲が良いけれど、男女で訓練内容が違うのでゆっくり話せる時間は早朝と夜間の少しだけだ。
「あのさぁステラ?」
「なによ?」
「エマに変なこと吹き込まないでくれる?しかもこんな朝から」
「変な事じゃないわよう!それにエマのほうが言い出したんだから。」
「そうなの?どういう風の吹き回し?!ショック…」
「ルイがショック受ける意味が分かんない」
あははは!と笑うステラの隣で、ルイはエマをじっと見た。
エマは彼の鮮やかな青色をした目がとても好きだ。
「ルイも慰安婦部屋に行くの?」
「…エマからそんな言葉が出るなんて…!はぁ…。俺は行った事ないよ」
「なんで?」
隣でステラが「女には困らないでしょ、このハンサムさんは」とまた笑った。
「そういうんじゃないって。」
否定しながらルイは食事を大急ぎで口に詰め込んだ。
もうすぐ点呼の時間だ。
…
「はぁ…。」
「ほら、エマ!走らないと間に合わないって」
今日は持久力の訓練。
エマはだらりと曲がった体勢でのろのろ歩き、「嫌だな」という感情をあらわにしている。
グラウンドに着くとグレイの姿があり、こんな日に限ってグレイが指導か…とまた気分が沈んだ。
100人ほどの女兵士が一斉にグラウンドを走るというシンプルな訓練だが、距離は午前に25キロ、午後に25キロと過酷な内容だ。
「礼!!!」
ひときわ気合いの入った女兵士の声で、全員が敬礼する。
「「「「はっ!!!!!」」」」
祈りの儀式をし、スタートラインに女兵士たちが並ぶ。
やる気のないエマは後方だ。
「ちょっとエマ、しゃきっとして」
「だって…」
「なんでそんなに嫌なわけ?遅くないじゃんエマ」
「単純にだるいんだよ。疲れるじゃん…」
「まったく、しょうがない人。軍人とは思えない」
それぞれが軽い準備運動を終えた頃、グレイが大きな声で言った。
「2時間を切れなかった者は罰がある。心して走れ。」
ほどなくして、「はじめ」の合図で一斉に走り出す。