神の口笛
第1章 1
…
始まって1時間半が経つと、早い者はもうゴールする。
どんだけ早いんだ、と思いながらも、エマももうすぐゴールだ。
ステラは後方にいるが、おそらく2時間には間に合うだろう。
無事にゴールし、言われたタイムは99分。
エマとしては悪くない出来だ。
不意にグレイの姿を探す。
記録員のいるそばで、1位のビアンカが背筋を伸ばしてグレイに向き合っていた。
「…。」
全員がゴールを果たしたあと、整列してグレイの言葉を聞く。
「1位はビアンカ、タイムは92分。素晴らしい成績だ!よくやったな。」
グレイが絶賛し、女兵士たちから拍手がおくられた。
ビアンカは照れたように頬を赤らめながらグレイを見つめている。
エマは不穏な感情が胸に渦巻くのを感じていた。
無駄なく鍛え抜かれた肉体。
小麦色の肌は健康的で、姿勢も良い。
ビアンカは完璧だった。
そういえば私は最近太ったような…。
「それじゃあ昼休憩が終わったらまた集合。」
グレイの指示で女兵士たちはいったん各ブロックへ戻る。
「新記録でたのに嬉しくなさそうじゃん。」
さっきまでゼェゼェと息を上げていたステラは、すっかり回復した様子で昼食を勢いよく口に運ぶ。
「自信なくした」
「はぁ?意味わかんないし!それ、ギリギリセーフだった私に言う?」
やがて昼食をとりに男兵士たちが戻って来て、再びルイと言葉を交わす。
なんとなく、少しずつ元気が出てきた。
午後の部、今度はもっとタイムを縮める意気込みでスタートラインに立つ。
しかし中盤に差し掛かった頃、ペースは悪くなかったはずなのにグレイに呼び止められた。
呼吸を整えつつコースを外れ、グレイの元へ駆け寄る。
「何?」
「サラシが外れている。こっちで直せ。」
見ると、確かに軍服の裾から白いサラシがはみ出ていた。
言われた通り小屋の中に入る。
グレイはカーテンを引き、その奥で直すよう促して背を向けた。