神の口笛
第1章 1
「グレイが慰安婦部屋に行ったってみんな騒いでた。」
「…暇な奴らだ。」
「…。」
「なんで黙る。」
「べつに…。」
慰安婦部屋のことも、ビアンカを絶賛していたことも、エマにとっては不快だった。
この感情が何物かは分からないけれど…。
「新しい本まわってきたぞ。今日来るか?」
エマの返事はひとつだった。
…
すっかり日が落ちた。
女兵士たちは各ブロックで夕食をとり、大浴場で汗を流す。
「あれ?もう食べないの?」
「うん…。北棟に行ってくる」
「グレイさんのところ?」
エマは頷き、歩き出した。
北棟にはやけに女たちが集まっていて、男兵士が通るたびにザワザワと囃し立てた。
「今夜、よかったら…」
「本当かい?僕でよければ是非。」
男女がそろって建物の奥に消えた。
エマは慣れた廊下をかろやかに進み、人気のないところまで来るとグレイの部屋の扉をノックした。
グレイは今日の訓練の報告書を書いていた。
「今日は良いタイムが出たな。疲れたろ。少し待ってくれ。」
「…ビアンカは速かった。」
「そうだな。」
「グレイがあんなに褒めるところ初めて見た。」
「そうか?」
「私は最近太った。」
「話に脈絡がなさすぎるぞ。」
「…。」
エマは膨れた。
その顔を見てグレイは苦笑し、問うた。
「どこが太ったって言うんだ」
「お尻とか…。」
「そんなことはない。」
「うそだ」
「嘘じゃない。」
「証拠は?」
「お前、無理を言うな…。」
しばらくの沈黙。
カリカリとグレイが筆を進める音だけが響いた。
「慰安婦は美人だった?」
「どうだったかな。」
「…ふぅん。…せ、せ…SEXした?」
グレイは驚いて筆を止め、振り返った。
エマからそんなワードが発されるとは思いもよらなかった。
「お前、SEXがなにか分かっているのか?」
「うぅん…一応。…たぶん。」
自信のなさそうなその態度にどこか安心し、ゆっくりと答える。
「してない。」