神の口笛
第1章 1
「なんで?」
「なんでもだ。」
また沈黙があった。
いつもなら仕事中のグレイにエマがちょっかいを出したり、早く!と催促するが、今日のエマは異様なほどおとなしかった。
「今日はやけに機嫌が悪いな」
報告書を書き終わったグレイが筆を置き、ベッドに腰掛けた。
「べつに…。」
「おいで。」
仏頂面のまま、それでもすんなりと腕の中に滑り込んでくるエマ。
ベッドに横になり、「ん!」と腕を伸ばし”抱きしめろ”と要求する彼女が可笑しくて、愛おしくて…
グレイはしっかりとエマを抱き寄せた。
背中をさすってやると、だんだん不機嫌が落ち着いてきたようだ。
「頑張ったんだよ」
「もちろん分かってる。良いタイムだって言ったろ。」
「…。」
どうしたらエマが笑ってくれるか考え、背中をさすっている手を尻まで下げた。
「ほら、太ってなんかないぞ。」
小ぶりで張りのある尻を、なるべくいやらしくならぬよう撫でる。
「本当?」
「ああ、本当だ。」
「ぅん……」
あたたかくて大きなグレイの手が心地よく、エマは目を閉じた。
背中に手を戻すと、「もう少しして」と小さな声でねだった。
戸惑いつつも尻を撫でてやる。
「背中より尻が良いのか?」
「…あったかくて、気持ちいいから…」
また、動悸がする。
でもこれがステラの言っていた”ムラムラ”なのかは分からない。
「ん…ぅ……」
エマの呼吸がほんの少しだけ熱を持った頃、グレイは空気を変えるべく、本を取りにベッドを降りた。
このままでは理性が飛び、精神が壊れてしまう…―――
ランプと本を持ってベッドに戻ると、エマは「今日は本、いい。」と言った。
「どうしたんだ?めずらしい。」
「グレイ…抱っこして」
「ん…。」
再び両腕でエマを包む。
彼女は胸にうずくまった。
熱が伝わり、鼓動まで聞こえてしまいそうだ。
「キスやSEXをしたことがある?」
やはり今日のエマはどこかおかしい。