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神の口笛

第1章 1


「あ、今日はトマトスープだ!」

トマトが大好きなエマは喜んだ。

ステンレスの容器になみなみ注ぎながら、今頃グレイも喜んでいるかなぁと考えた。



このガルダン基地は東西南北のブロックに分かれており、それぞれに200名ほどの兵士が暮らす。

エマやステラは東ブロック所属。

そして北ブロックにはグレイという青年が所属している。



エマは幼い頃、クベナ教を信仰し静かに暮らしていた両親が、抗争に巻き込まれて死んだ。

それから軍の孤児院で訓練を受けつつ育ち、16歳で防衛軍に入った。

この国では、クベナ教の家庭で育った子供が親を亡くした場合皆そうなる。


その孤児院でグレイと出会った。

彼の両親は防衛軍に所属しており、35歳で引退してすぐにグレイが生まれた。

その後、両親とも感染症で死亡し孤児院に来たのだ。

2歳上のグレイはエマを妹同然に可愛がり、時には叱った。


グレイが防衛軍に入ってからの2年間、エマは自分もグレイと同じ場所へ行くのだと志し、特に秀でていた弓矢の技術を磨いた。


防衛軍に所属した者は、原則として35歳まで外には出られない。

基地内には金銭が存在しないが、引退する際にはそれなりの金額を受け取ることが出来るというわけだ。







同じ頃、グレイはトマトスープをすすりながらエマの事を考えて思わず口角を上げていた。

「なんだよグレイ、めずらしく優しい顔しちゃって」

同僚に言われ、慌てて表情を戻す。

「いや、別に」


防衛軍に入り最初の1年間は歩兵として訓練を重ねた。

それから特攻騎馬隊に志願入隊したから、馬に乗ってもう6年になる。

軍の中で最も過酷で危険と言われる特攻騎馬隊は、反クベナからの攻撃があった際にいち早く駆け付け、最前線で防衛にあたる。

クベナは自発的な攻撃はせず、あくまで自分たちを守るためだけに戦う。

そもそもクベナ教は争いを好まない思想の多神教であり、武器をもって戦うというこの現実が時折よく分からなくなるのも事実だ。


「今日は東ブロックの訓練だな。エマちゃん馬は苦手だから心配なんだろ?ははっ」

同僚はいたずらに笑う。

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