神の口笛
第1章 1
確かにエマは防衛軍に入った当初から、今に至っても乗馬がうまくない。
今日もきっとなにかヘマするだろう。
幼い頃から一緒に育ち、同じ基地に配属された。グレイとエマを本当の兄弟だと思っている者も少なくない。
…
「暑い…っ!」
東棟から出たステラが吐き捨てるように言った。
ここデワトワ国には三つの季節が巡る。
極暑の今は火の季節。
じきに穏やかな気候の葉の季節になり、そして極寒である白の季節が来る。
すると突然また極暑、火の季節になるという変わった地帯だ。
「私は暑い方が好き。寒いのはヤダ」
戦闘ブーツを履きながらエマは答える。
汗をぬぐいながら2人で厩舎に向かい、すでに整列を始めていた同ブロックのリーダーであるマルコスから怒声が飛んだ。
「遅い!だらだらと歩くな!さっさと並べっ!!」
すぐに背筋を伸ばしてダッシュするステラとは裏腹に、エマは機嫌の悪さを隠そうともせずしぶしぶ小走りをした。
戦地に女がいても役には立たない、というマルコスの心の声はいつも丸聞こえだ。そんな彼にエマはいつも反抗的だった。
厩舎の前に整列中、グレイの姿を見つけた。
乗馬の訓練は騎馬隊が指導するが、誰が来るかはその日にならないと分からない。
「うへぇ、今日はグレイの指導か…」
「エマ、また怒られるね。ふふっ」
ステラは楽しそうに笑う。
訓練のとき、グレイはとても厳しい事で知られている。
その厳しさは、もちろんエマにも分け隔てなく注がれる。
指導役は何人もいるが、エマの指導は今日も絶対にグレイが担当するだろう。
「はぁ…。やだなぁ、乗馬訓練…。」