神の口笛
第2章 2
…
その頃…――
ビアンカは夜毎グレイを誘うようになったが、良い返事をもらえずにいた。
夜の誘いは役職も年齢も無礼講。
しかし、実際グレイに声をかけるのは女兵士にとってなかなか勇気が要る事だ。にもかかわらず、何度断られてもビアンカはめげずに声を掛けた。
「あのっ…、グレイさん!」
今日もグレイの湯浴みが終わるのを待ち、廊下で待っていたビアンカ。
「いたのか。風邪をひくぞ。」
髪が濡れたままの彼女にそう言い、グレイは自室へ向かって歩き始める。
もっと話をしたい…
もっと近付きたい…
断られるほど、ビアンカの欲望は強くなっていく。
…
火の季節が終わり、葉の季節がやってきた。
過ごしやすい気候によって兵士たちの表情もいくらか穏やかに見える。
今日は大祭りの前日。
エマが弥生の小屋から戻る日でもある。
訓練は半日で終了し、午後からは基地中が大祭りの準備で大忙しになる。
グレイは、朝一番でジョギングがてら農地へと走った。
テオヌ明けのエマが喜ぶだろうと大きなトマトを手に入れるためだ。
「グレイさん!おはようございます。」
「ああ。トマトをもらいに来たんだ。」
軍専属の農夫たちは快く、大きくて真っ赤なトマトを吟味した。
「2つばかしで良いんですかい?」
「そんなに食べられないからな。いつも立派なトマトだ。ありがとう。」
農夫は喜び、北棟へ戻っていくグレイを見送った。
今日は馬術の訓練だ。
様々な障害物を避けながら、いかに早くゴールするかが重要になる。
エマたちは本職である弓矢の訓練だな…。
あとで少し顔を出すか。