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神の口笛

第2章 2


「待て。ベッドには寄るな。」

ここは自分とエマの寝床だ。

誰にも触れさせたくはない。


「どうしてですかっ…?なにか理由があるのならおっしゃって」

とうとうビアンカはグレイに抱き付くような体勢で押し倒そうとした。


「神に背く気か?」

「グレイさんに愛でてもらえるのなら、神に背いたっていい。それくらい私は…っ――」


せまってくるビアンカの肩を押さえ、制御した瞬間

トントン、と扉が鳴った。



「……守りたい人間がいる。だから君を抱くことは出来ない。分かったら出て行け。」

「いやよっ!分からないわっ!」

ビアンカが声を張り上げ、すぐに扉の外から「グレイ…?」とエマが言う。









なにやら揉めている声が聞こえ、エマは深く考える間もなく扉をあけてしまった。


「グレイ、なにかあった……の…」


ベッドには泣きながらグレイに絡みつくビアンカの姿。

とっさに、すぐに去った。


グレイは今度こそ強い力でビアンカを自分から剥がし取り、追いかける体勢に入る。


「知ってるわ、あの子。エマね。あなたの妹でしょう?」

グレイとエマの兄妹愛は基地内でもよく知られているのだ。



「…血は繋がっていない。」

「そんな……!」

怒りか嫉妬か…、憎悪が滲み出るビアンカの顔を見ないまま、グレイは走り出した。








「おいエマ!待て!」

北棟と東棟のちょうど境目、光のない暗い場所でエマは立ち止まる。

「なにあせってるの?」

「…あせってない。お前こそどうして逃げる。」

「まさかビアンカがいるとは思わなかったから…驚いて逃げちゃった。」

せつない笑みに、グレイは胸が痛んだ。

エマもエマで、グレイの部屋に女がいるなんて初めての出来事で相当に動揺していた。

何をしていたの?なんて聞けるはずもなかった。


「相談を聞いていただけだ。」

グレイはそれだけ言い、トマトを差し出した。

いつもなら大喜びするような立派なトマトだったが、エマは表情を変えず東棟に帰っていく。



グレイはしばらくそこを動けずにいた。


遠くで獣の鳴き声が聞こえ出した頃、部屋に戻る。


さすがにもうビアンカの姿はなかった。


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