神の口笛
第2章 2
…
「あれ?」
グレイの部屋でトマトを食べるのだとはしゃぎながら駆けていったエマが、もう戻ってきたのでステラは驚いた。
見慣れた仏頂面だが、いつもに増して生気がない。
手に持っていた大きなトマトをひとつ差し出すので受け取り、とにかく座りなよと促すと素直にベッドへ腰掛けた。
「なにがあったわけ?」
「…。」
「このトマト、食べて良いの?」
未だ何も喋らないエマが、大きく一度頷いた。
「ありがと。じゃあ一緒に食べよ。」
晴天の今日、窓からは手で掴めそうなほどの星空が見える。
ステラがトマトにかぶりつき、やがてエマも小さく齧った。
「喧嘩でもした?グレイさんと」
「…してない」
相変わらず、感情が分かりやすくて憎めない友人だ。
ステラはさらにトマトを頬張りながら、次の言葉を待った。
「グレイの部屋に行ったら…ビアンカが、泣いていた。」
「んぐっ。…どういう事?」
驚きでむせそうになりながらステラは聞いた。
「私にも分からない。」
おおかた、ビアンカの色仕掛けにグレイさんはなびかず、結局泣き落としにかかった…というところだろう。
ステラはそう推測したが、今は言わなかった。
「美味しいね、このトマト」
話をそらすために言ったが、エマは「味がしない」と相変わらず仏頂面だった。
…
そんな状態で大祭りが始まってしまった。
朝から有志たちによる太鼓や神器の演奏があり、基地内のムードは祭り一色だが、エマの気分は下向きだった。
「エマ!整列の時間だよ!」
今日もステラが元気にエマを起こしにかかる。
大祭りのときは食堂での食事が出ない。
そこかしこで焚かれている炎で家畜の肉が焼かれたり、テーブルには町から運ばれてきた果物やチーズが山ほど並ぶ。
すべての兵士たちが各ブロックの前に整列し、中央の御神木に向かって特別な祈りの儀式をする。
これが終われば、食べ放題の飲み放題だ。
隣では信仰の深いステラが、目をつむって真面目に祈りの言葉を唱えている。
エマはこれから葡萄酒が飲めることを思い、それからまたグレイのことを考えた。
本当は今までのように、一緒に葡萄酒を飲みたかった…。
「あれ?」
グレイの部屋でトマトを食べるのだとはしゃぎながら駆けていったエマが、もう戻ってきたのでステラは驚いた。
見慣れた仏頂面だが、いつもに増して生気がない。
手に持っていた大きなトマトをひとつ差し出すので受け取り、とにかく座りなよと促すと素直にベッドへ腰掛けた。
「なにがあったわけ?」
「…。」
「このトマト、食べて良いの?」
未だ何も喋らないエマが、大きく一度頷いた。
「ありがと。じゃあ一緒に食べよ。」
晴天の今日、窓からは手で掴めそうなほどの星空が見える。
ステラがトマトにかぶりつき、やがてエマも小さく齧った。
「喧嘩でもした?グレイさんと」
「…してない」
相変わらず、感情が分かりやすくて憎めない友人だ。
ステラはさらにトマトを頬張りながら、次の言葉を待った。
「グレイの部屋に行ったら…ビアンカが、泣いていた。」
「んぐっ。…どういう事?」
驚きでむせそうになりながらステラは聞いた。
「私にも分からない。」
おおかた、ビアンカの色仕掛けにグレイさんはなびかず、結局泣き落としにかかった…というところだろう。
ステラはそう推測したが、今は言わなかった。
「美味しいね、このトマト」
話をそらすために言ったが、エマは「味がしない」と相変わらず仏頂面だった。
…
そんな状態で大祭りが始まってしまった。
朝から有志たちによる太鼓や神器の演奏があり、基地内のムードは祭り一色だが、エマの気分は下向きだった。
「エマ!整列の時間だよ!」
今日もステラが元気にエマを起こしにかかる。
大祭りのときは食堂での食事が出ない。
そこかしこで焚かれている炎で家畜の肉が焼かれたり、テーブルには町から運ばれてきた果物やチーズが山ほど並ぶ。
すべての兵士たちが各ブロックの前に整列し、中央の御神木に向かって特別な祈りの儀式をする。
これが終われば、食べ放題の飲み放題だ。
隣では信仰の深いステラが、目をつむって真面目に祈りの言葉を唱えている。
エマはこれから葡萄酒が飲めることを思い、それからまたグレイのことを考えた。
本当は今までのように、一緒に葡萄酒を飲みたかった…。