神の口笛
第2章 2
「うーん、男の世界だからね。ヘマすると普通に殴られるし、なんと言ってもグレイは目が怖すぎて。誰も逆らえないよ」
「目?」
「そう。あれに睨まれたらみんな金縛りに合っちゃってさ、なにも言えないわけ」
「へぇ…」
「でも殴られるときは大抵、そのヘマをしたら命を落とすぞ、っていう時。それにほかの班では罰として夕飯抜きとかあるけど、グレイ班はそれが絶対ないね。食わなきゃ兵士は動けないだろ?」
「そりゃ、そうだ。」
今度は葡萄酒をがぶ飲みしながらステラが相槌を打った。
「だからさ、怖がられてはいるけど、嫌われてるわけじゃない。分かる?」
「うん。」
早くも酒がまわってきた口調のルイに、エマは大真面目にうなずいた。
なにやら複数の女の声がして振り返る。
ルイ目当ての女兵士たちが、乾杯をしようとやってきたのだった。
大祭りの白装束をまとう時、女はサラシを巻かない。
それをいいことに女はルイに胸を押し当てるが、ルイは特に気にしていない様子だ。
ぐいぐいとテーブルの隅に追いやられたエマとステラは、日常茶飯事でもあるこの光景に驚くことはない。
「ルイって、いつも人気があるね。」
「そうだね。顔が良いから。」
どうってことないようにステラが答えた。
「目が青いから?」
「え?あははっ。エマはルイの目が好きだもんね。」
「うん。すごくきれい。」
「ルイがモテるのはぁ…、顔がよくて優しいからかな。」
確かにルイはいつもすごく優しいので、エマは同意するようにうなずいた。
「グレイさんは優しい?」
「うん。」
「そっか。そうだよね。」
「…ねえ。好きにはいろんな種類があるんでしょ?ステラ言ってたよね、私とステラの好きは友情だって」
「そうね。親も好き、友達も好き、SEXの相手も好き、トマトが好き、葡萄酒が好き。色々ある。それは分かるでしょ?」