神の口笛
第2章 2
「うん…。」
「そのわりに、な~んか浮かない顔じゃん」
「私は…ステラも、グレイもルイも好き。だけどSEXはしない。どうやってSEXする相手を決めるの?」
「…そういう事か。」
「何?」
「ううん。私にもあんまり分からないけど、エマは多分…愛の事を言ってると思う」
「愛」
「聞いたことある?」
「弥生の小屋でソフィアが言ってた。昔は、愛する相手とSEXしたのよって。」
「そうそう。今だって、基地の外で暮らす人たちは愛する人とSEXをして子を持つんだよ。うちの両親だってそうだもん。」
「うん。」
「でも私たちは兵士だから、国を…というかクベナの教えを守るのに専念しなきゃなんない。だから避妊薬も飲むし、好きだの愛だのっていう習慣がほとんどない。しかもそれが35歳まで続く。愛を知る機会がないよね。」
「じゃあ…単純に、性欲があるからSEXする?」
「うん。SEXには快楽があって……って、何聞くのよーっ!」
「快楽?ソフィアは、痛みがあるって言ってた。」
「まぁ、最初はね。」
「…。」
愛する事の定義も、痛みが快楽に変わるというのも、エマにはさっぱり分からなかった。
ルイにまとわりつく女たちは口々に今夜の相手になりたいと誘いをかけるが、ルイは首を縦に振らなかった。
大祭りの前夜から女は身を清め、祈りの儀式を迎え、そして大祭り当日の夜8時以降は性交が許される。
クベナの教えでは夜の8時に1日が切り替わるとされているため、その名残の風習だ。
「あ。」
ステラの声で同じ方向を見ると、ビアンカがこのテーブルを横切っていく時だった。
「え……?」
ものすごい目つきで睨みつけながら歩いていくビアンカに、エマは驚いた。
彼女に恨まれることなどひとつも思いつかないし、むしろ訓練ではいつもエマが背中を追う立場だ。
完璧な肉体、完璧な成績。
それなのに自分が憎しみを抱かれているなんて、わけが分からなかった。
強いて言えば、弓矢なら負けない自信がある。
でもビアンカは歩兵の通信部隊所属なので、そもそも弓矢の訓練には来ない。争う機会は無いのだ。