神の口笛
第2章 2
「なにあれ。ヤな感じ。さぁ、飲も飲も!」
ステラはビアンカの感情になんとなく感づいていたが、大祭りに揉めるのは信仰心が許さない。
エマを誘って葡萄酒のおかわりを取りに立つ。
日が暮れ始め、ぐうぐうと寝ていた兵士たちも起き出し、ふたたび葡萄酒をあおった。
8時が近づいてきたからか、このテーブルには昼間よりも多くの女兵士が押しかけて鮨詰め状態だ。
「ルイさぁん!こっちも向いてよぉ」
「ちょっと、席変わってー!」
「あ、ずるーい!!」
普段は訓練に勤しみ、屈強な女兵士でも、やはり男が好きなのだなぁとステラは他人事のように思った。
「せまい…」
葡萄酒をおかわりして戻ってきたエマがつぶやく。
「そうだね、向こうのテーブルに行こう」
移動した先の男たちがそわそわするが、2人が男を誘う雰囲気でないことを察知するとつまらなそうな顔をした。
「モツァレラがあるよ。食べるでしょ?」
ステラはそれを皿に盛った。
エマが山羊のチーズの次にモツァレラが好きだということを知っているのだ。
美味しそうに食べるエマには、戦地で活躍した女兵士とは思えない儚さがある。
触れたら消えてしまいそうなほどに…。
頬杖をついてエマの顔を微笑ましく眺めていると、うしろから声がかかった。
「エマ」
振り返るとグレイが立っていて、どうやらエマを探していたのかうっすらと息切れしている。
エマは浮かない表情だったが、ステラは席を立った。
「どこに行くの?」
「西棟の仲間のとこに行ってくる!私朝までしっかり起きてるから。またあとでね。」
クベナを熱心に信仰するステラは、ならわしどおり朝まで起きている気マンマンで駆けていった。
同じテーブルの隅で飲んでいた男兵士も、グレイが来たことで去っていった。
「ほら。食べよう。」
グレイの手には昨日と同じ、大きな深紅のトマトが乗っている。
「昨日食べたよ。」
「一緒には食べてない。」