神の口笛
第3章 3
その言葉どおりグレイの部屋には葡萄酒のボトルがあり、ロックグラスに入れてもらったそれをエマは喜んで飲んだ。
部屋にブドウの香りが充満する。
窓際の椅子に座っているグレイの膝にエマが乗り、共に星を眺めた。
「あっ!流れ星!」
紙一枚たりとも入る隙がないほど背中を密着させ、エマはだらりとすべてをグレイに委ねている。
今日はよく甘えるな…とグレイは思った。
ビアンカの一件があったので少し焦っていたが、素直に甘えるエマの素顔を見て安心する。
「熱い。飲みすぎだ。」
後ろからエマの頬に触れてグレイは言った。
顔が赤らみ、とろりとまぶたの動きが鈍い。
「もうおしまい?」
「そうだな。体に障る。ほら…」
グレイはエマを抱き上げ、ベッドまで運んだ。
「まだ寝たくない…」
「なんでだ?」
「…。」
もっとこうして、グレイを見ていたい。話したい。触れていたい。
しかしその思いを、エマにはうまく言葉にできなかった。
「無理に寝なくていい。横になって、なにか話でもしよう。」
エマは頷き、脱力した様子でベッドに寝そべった。
隣にはグレイが添い寝し、頬杖をつきながら大きな手でエマの頬を包んだ。
「グレイの手、好き」
酒に酔った時だけ発する独特の甘い声が、グレイの心臓を刺激する。
「…そうか。」
「今日、モツァレラを食べた。」
「美味かったか?」
「うん。毎日食べたい。」
大真面目に言うエマが愛らしくて、グレイはふふっと笑った。
「ビアンカは…なんで泣いていた?」
少しの沈黙の後、グレイの胸元を指先でいじりながらエマがつぶやいた。