神の口笛
第4章 4
やはり訓練だろうか、それともまだマルコスのところにいるのか。
「グレイはどこ?」
通りかかった兵士に聞く。
「あぁっと…グレイさんなら乗馬訓練で、今頃は厩舎にいるかな」
北棟を出て厩舎の方角を見渡す。
優れた視力を持つエマは、すぐに新人兵士たちの乗馬訓練を指導するグレイの姿を見つけた。
「グレイ!…―――グレイッ!」
はぁはぁと息が切れるのも惜しまず、エマは出来る限りの力で走った。
エマの声に気付いて振り返ったグレイは、一瞬驚いた顔をしてから走り出す。
「エマ!」
「どうして来てくれなかった?」
「すまない。今夜は行こうと思っていた。もう傷は良いのか?」
グレイは、昨晩までマルコスの拷問に携わっていたことを伏せた。
「うん。ほら、こんな縫い目がついた。」
エマはめずらしいものでも見せてやるかのように襟を伸ばした。
「……っ。」
「グレイ…?」
うつむいて拳を握りしめるグレイを心配するように、エマが顔をのぞきこむ。
グレイの目は、死んだ魚のようにどんよりと濁った色をしていた。
「何でもない、大丈夫だ。」
今夜は一緒に眠ると約束し、グレイは訓練へ。エマは東棟へ戻っていった。
…
扉をノックすると、今日は向こうからグレイがあけてくれた。
久しぶりにグレイの膝の中に入り、髪をとかしてもらう。
エマの柔らかな髪を片方に流すと、華奢な首が見えた。
別の棟で起こった事とはいえ、守れなかった自分にもどかしさが募る。
「もうすぐ合宿だ。お前は行くのか?」
「うん。オリバーがもう大丈夫だって。」
「…そうか。」
防衛軍では不定期で、訓練のための合宿スケジュールが組まれる。
大抵はジャングルの中でテントを張り、サバイバル下での演習だ。
部隊ごとに成績上位の者が選ばれ、参加する。
エマはグレイと一緒に眠れないので合宿が好きでは無いが、メンバーに選ばれないのはもっと嫌だった。