神の口笛
第4章 4
「戦のために訓練してるんじゃなかったのか?今死にたいなら叶えてやるぞ。」
何度も謝罪しながら大騒ぎで戻っていく男たちを見、グレイもその場を去った。
殺す気はないが、激しい怒りが湧いているのは確かだった。
幼い頃には何度も見たエマの裸体が、今はどうなっているのか…考えることすら罪に感じる。
雑念を振り払い、テントへ帰る。
…
相変わらず、乗馬訓練ではいつもビアンカが褒められていた。
女兵士に尊敬のまなざしで見られることもあれば、中には妬む者もいた。
エマはどちらでもなく、ただただ鍛錬を積む。
勝ちたい、負けたくない、その一心で。
その夜、エマとステラがまだ夕食をとっている頃…――。
「ビアンカ、最近グレイさんにアプローチしてないじゃない。諦めたのぉ?」
湯浴み中、1人の女兵士が聞いた。
「強引にいくの、やめたの。頑張って良い成績を残す!それで、認めてもらう!」
「へぇ~。押して駄目なら引いてみろってやつね」
「ふふっ。諦めたりしないよ。」
精神面も強いと見えるビアンカは、自信ありげにまっすぐ前を見据えた。
…
合宿も後半に差し掛かるが、エマはやはりビアンカに勝てずにいた。
むしろ、気にするほど馬と調和が合わなくなり、落馬する事もあった。
「集中しろ!ここが戦地だったら死んでいるぞ!」
今日も叱られてしまった。
「あはは。エマ、大丈夫?」
夕食時、目に見えて落ち込んでいる彼女にルイが声をかけた。
「全然できない。特に…馬が…」
「今日は集中できなかった?」
「ううん。いつも。それに足だって一番になれないし、弓矢も最近は調子がよくない。」
「コンディションってあるから。誰にだってうまくいかない時があるよ。」
「ルイもあった?」
「そりゃあね。すっっっごくあったよ。」
「ふぅん…。」
夕食の牛肉スープをスプーンでいじくりながら、エマはまた目を伏せた。
落ち込んでいるその表情に、ルイは鼓動が早まるのを感じる。