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神の口笛

第4章 4


「戦のために訓練してるんじゃなかったのか?今死にたいなら叶えてやるぞ。」


何度も謝罪しながら大騒ぎで戻っていく男たちを見、グレイもその場を去った。

殺す気はないが、激しい怒りが湧いているのは確かだった。


幼い頃には何度も見たエマの裸体が、今はどうなっているのか…考えることすら罪に感じる。

雑念を振り払い、テントへ帰る。









相変わらず、乗馬訓練ではいつもビアンカが褒められていた。

女兵士に尊敬のまなざしで見られることもあれば、中には妬む者もいた。

エマはどちらでもなく、ただただ鍛錬を積む。

勝ちたい、負けたくない、その一心で。





その夜、エマとステラがまだ夕食をとっている頃…――。



「ビアンカ、最近グレイさんにアプローチしてないじゃない。諦めたのぉ?」

湯浴み中、1人の女兵士が聞いた。

「強引にいくの、やめたの。頑張って良い成績を残す!それで、認めてもらう!」

「へぇ~。押して駄目なら引いてみろってやつね」

「ふふっ。諦めたりしないよ。」


精神面も強いと見えるビアンカは、自信ありげにまっすぐ前を見据えた。







合宿も後半に差し掛かるが、エマはやはりビアンカに勝てずにいた。

むしろ、気にするほど馬と調和が合わなくなり、落馬する事もあった。


「集中しろ!ここが戦地だったら死んでいるぞ!」

今日も叱られてしまった。





「あはは。エマ、大丈夫?」

夕食時、目に見えて落ち込んでいる彼女にルイが声をかけた。

「全然できない。特に…馬が…」

「今日は集中できなかった?」

「ううん。いつも。それに足だって一番になれないし、弓矢も最近は調子がよくない。」

「コンディションってあるから。誰にだってうまくいかない時があるよ。」

「ルイもあった?」

「そりゃあね。すっっっごくあったよ。」

「ふぅん…。」

夕食の牛肉スープをスプーンでいじくりながら、エマはまた目を伏せた。


落ち込んでいるその表情に、ルイは鼓動が早まるのを感じる。


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