神の口笛
第5章 5
なにか考えているのだろうか、黙っているエマの背中はいつもよりも丸まっていた。
いや、ただ疲れているのだろう。
「もう横になれ。体を休めることも訓練のひとつだぞ。」
「うん…。」
ほんのり灯るランプに照らされながら、2人は身を寄せ合ってベッドに横になった。
「グレイに守ってもらわなくても、自分で生きられるくらい強くなりたい。」
…衝撃だった。
小さかったエマにもいつしか自立心が芽生え、自分の事をもう必要としなくなっているのかもしれない。
やるせなかったが、それでも冷静を装った。
「…なぜだ?俺がいるなら必要以上に強くなる必要などない。」
「でもグレイは…私にかまっていると自分の人生が生きられない。」
「なんだって?」
「本当はもっと自由に遊びたい」
「誰がそんなこと言ったんだ。」
グレイは自分の深部で猛烈な怒りが湧くのを感じた
「…。」
「それでずっと来なかったのか?」
「だって…」
めずらしく泣きそうな表情で目を伏せるエマを、グレイは強く抱きしめた。
「エマ………俺は……―――」
言葉にできない。
沈黙の間、何度もエマの髪をくしゃりと撫でた。
「グレイの足手まといになりたくない。」
「足手まといなんてそんな事、少しも思っていない。俺は俺の意志でお前とこうしている。」
「…ん…。」
「でたらめを言う奴はいつでも一定数いるもんだ。気にしなくていい。不安なことはまず俺に聞け。」
「分かった…」
「明日は休養日だ。少し夜更かしでもするか?」
めずらしくいたずらな表情でグレイが言った。
「…うんっ!」
今夜はエマの希望で、大好きな本を読んでもらった。
幼い兄妹が森に迷い込み、魔女につかまってしまう話。
2人はたくさんの食料を与えられ、初めは喜ぶが、それは太らせて食べてやろうという魔女の魂胆だと知る。
夜な夜な計画を練り、魔女をやっつけて村へ帰るというストーリーだ。